列車内ブロードバンド、JR東海方式とつくばエクスプレス方式の違いとは? | RBB TODAY
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列車内ブロードバンド、JR東海方式とつくばエクスプレス方式の違いとは?

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TX-2000系の3号車と4号車は向かい合い座席。肘掛けからテーブルが出るのでノートPCの作業に便利
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 "つくばエクスプレス"を運行する首都圏新都市鉄道とインテル、NTTブロードバンドプラットフォームは、7月25日に列車内無線LAN接続サービスに関する記者発表会を実施した。また、同日午後、報道関係者を招いて列車内でのデモンストレーションを行った。

■"JR東海方式"に対する利点は"ネットの速度"
 列車内からのインターネットアクセスについては、つくばエクスプレスが先行しいていた。しかし2006年6月にJR東海が新幹線のインターネット接続環境を整備すると発表。これは、運転士や車掌が駅や列車司令室と交信するための列車無線をデジタル化し、乗客向けのインターネットサービスも同じ設備で利用できるようにするというものだ。この方式はすでに線路沿いに敷設されている漏洩同軸ケーブルをアンテナとして使うため、中継局が不要で、列車上のシステムと地上のシステムを構築するだけで済む。

 ちなみに、漏洩同軸ケーブルと書くと文字的にセキュリティの不安を感じてしまうが、この場合の漏洩とはケーブルに信号を流し、その信号をケーブルの周りに発生させて、アンテナのように送受信できるアンテナを兼ねている、という意味だ。身近なところでは、長いトンネルでラジオを受信できるようにするために使われている。

 この"JR東海方式"に対して、"つくばエクスプレス方式"のメリットは何かとエヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム株式会社の担当者に質問したところ、「"JR東海方式"の詳細は判らないが、おそらく速度は"つくばエクスプレス方式"のほうが速いはず。"つくばエクスプレス方式"では現在最高速の無線LANシステムを使っている」との回答を得た。列車内の利用者から見ると、"JR東海方式"は下り2Mbps、上り1Mbpsである。一方、"つくばエクスプレス方式"は理論値で最大54MbpsのIEEE 802.11gとなっている。

 エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム株式会社の最大の苦心は、この高速無線LANにおけるハンドオーバー処理だった。列車が時速130キロで走行した場合、中継局がカバーする500メートルの距離は15秒以内で通過していく。1分間で4回以上のハンドオーバーを行う。この切替技術とセッション維持技術は同社が実験とチューニングを極めた結果だ。

 これが新幹線の時速270キロメートルとなったら、おそらく無線LAN中継局とのハンドオーバーは不可能である。"JR東海方式"は既存の設備を利用し、長大で高速な路線に適している。"つくばエクスプレス方式"は、中継局設置などのコストがかかるけれども通信品質は高い。比較的短距離の路線に適した方式だと言えそうだ。時速130キロに対応していれば、ほぼすべての在来線で適用できる。

 "つくばエクスプレス方式"のもうひとつのメリットは、鉄道会社とネットワーク設備会社が協業しやすいことだろう。"JR東海方式"は列車無線という、安全のため仕様を公開しにくい部分だ。したがって自社で整備しなくてはいけない。しかし、"つくばエクスプレス方式"なら、鉄道会社が自社の設備に影響する部分を最小限に留めて、乗客にネットワーク接続サービスを提供できる。

■"つくばエクスプレス方式"今後の展開と課題
 "つくばエクスプレス方式"の副次的効果として、沿線地域との連携が可能となるメリットもある。現在はまだ実施されていないようだが、沿線の中継局にも無線LANアクセスポイントを設置すれば、中継局付近の住民や企業も無線LANによる高速なインターネットを利用できる。駅間のど真ん中は市街地から外れており、有線によるブロードサービスの恩恵を受けにくい地域である。こうした地域の救済もできるのだ。鉄道会社が沿線住民のインターネットサービスプロバイダーになる日が来るかもしれない。

 実は、"つくばエクスプレス方式"の整備はこれで終わりではない。まだ全列車にアンテナが付いていないため、今後はこれらにも整備していくことになるだろう。また、つくばエクスプレス自身のスピードアップにどう対応していくか、という問題もある。実はつくばエクスプレスの線路は在来線における最高規格で作られており、時速160キロの運行が可能だ。つくばエクスプレス沿線は開発ラッシュで、今後ますます乗客が増えていくだろう。すると必然的に列車の増発が必要になり、ダイヤ上からもスピードアップが望まれる状況になると思われる。そのとき、この列車内無線LANサービスは追随できるのか。鉄道会社としては「無線LANが提供できないからスピードアップができない」とは言えないはずだ。

 早くも"次"を目指した取り組みが始まっているのかもしれない。
《杉山淳一》
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