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★ Slash Gamesは、2007年6月1日より「インサイド」になりました
[GDC 06] ニンテンドーWi-Fiコネクション、ユーザに受け入れられた秘訣は原点に立ち返っての問題洗い出しから
3月29日
ニンテンドーWi-Fiコネクションの開発を主導した大原貴夫氏(任天堂)
 昨年は任天堂にとって大きな飛躍の年となった。ニンテンドーDSもさることながら、「ニンテンドーWi-Fiコネクション」の提供で、パッケージゲーム販売に加えてオンラインゲームのインフラベンダーにもなったからだ。米サンノゼで開催されたGDC(Game Developers Conference)会場で、ニンテンドーWi-Fiコネクションの開発を主導した同社の大原貴夫氏は、「The Zen of Wi-Fi: A Postmortem of the Wireless Features of Nintendo DS」と題した講演を行い、同システムの開発コンセプトと事後分析を行った。

 任天堂とネットワークインフラの関係は、1988年の「ファミコントレード」に始まり、以後「サテラビュー」(95)、「ランドネットDD」(99)、「モバイルシステムGB」(01)と続くが、国内のみの提供で、いずれも「大規模な実験」に留まった。90年代後半からオンラインゲーム市場が立ち上がり始めた時も、同社は「オンラインゲームで本当に利益を上げている企業はない」などのコメントを続け、同事業には一線を画していた。一昨年のE3で無線LANを内蔵したニンテンドーDSが発表された時も、誰もが通信ケーブルなしで対戦できる、といった程度に捉えていたものだ。それだけに、昨年のE3で岩田社長からニンテンドーWi-Fiコネクションの構想が発表された時は耳を疑った。

 年末には満を持して「おいでよ どうぶつの森」「マリオカートDS」という戦略ソフトを投入。自宅の無線ルータを介して、実にあっさりとネットワークにつながり、目の前で友人と遊んでいるのと変わらない感覚で、「マリオカートDS」の対戦プレイができたことを覚えている。その後の爆発的な勢いは周知の通り。大原氏は4ヶ月間で100万人以上のユニークユーザーが登録し、2900万回以上の対戦が行われていると述べた。現在、同システムに対応したソフトは、北米では「マリオカートDS」「おいでよ どうぶつの森」「TONY HAWK'S AMERICAN SK8LAND」「ロストマジック」「BLEACH DS 蒼天に駆ける運命」「メトロイド プライムハンターズ」「テトリスDS」と、サードパーティ製を含めて7本にのぼり、今後も発売が予定されている。

北米で発売中のニンテンドーWi-Fiコネクション対応タイトル(左) ニンテンドーWi-Fi USBコネクタ(中) 全世界のアクセスポイントの設置数(右)

 大原氏はニンテンドーWi-Fiコネクションの開発にあたり、世界で一番たくさんの人に遊んでもらえるサービスにすること。具体的には対応ソフトを購入したユーザーが、一度はオンラインに接続して遊んでもらえるようなサービスの提供が目標だったと述べた。そのために、既存のオンラインゲームになぜユーザーが障壁を感じるのかについて社内で分析したところ「ネットワークにつなぐのが面倒、難しい」「中・上級プレイヤーの中で初心者が溶け込めないのでは」「ネットワーク上の匿名性や、言葉の暴力などが怖い」「課金に対する不安」の4つの理由が上がった。この問題に一つずつ対応した結果が、ニンテンドーWi-Fiコネクションの「カンタン、あんしん、無料」というキーワードにつながったという。

 具体的には難解な専門用語を一切使わずに無線LANの接続設定ができる「ニンテンドーWi-Fi USBコネクタ」。IDパスワードを使用せずに、Wi-FiコネクションIDをニンテンドーDS本体で自動的に生成するシステム。ゲーム開発のノウハウを生かし、一般的なルータの設定レベルなら分岐なく設定ができる「The Nintendo Wi-Fi Conection Setup Utility」。日本で1,000カ所、アメリカで6,700カ所、全世界で約3万カ所にものぼるアクセスポイントの設置など。そこには子供からお年寄りまで全世界のユーザーに等しく遊びを提供するという、同社の強い姿勢が感じられる。

 またシステム開発の面では、オンラインゲームのヘビーユーザーではなく、サイレントマジョリティの声を反映させることが目標とされた。大原氏はこうしたユーザーもコンソールでの対戦プレイや、携帯ゲーム機での通信遊び、さらにはPCのカジュアルゲームなどは遊んでいると分析。その結果オンラインゲームというよりは、非常に長い通信ケーブルで接続して遊ぶイメージが追求された。一般のオンラインサービスに見られるような「ロビー機能」がないのもそのため。「対面で直接通信することでフレンドとして登録。登録した友人とは離れていてもネットワークを経由して通信できる仕組みだ」(大原氏)。

 ニンテンドーWi-Fiコネクションの活用法について大原氏は、個々のゲームの属性によって異なると語る。「おいでよ どうぶつの森」では、自分のアイデンティティの象徴でもある「村」が、他のユーザーによって破壊されるかもしれない危険性から、通信相手をあらかじめフレンドコードを交換した人に限定した。一方で「マリオカートDS」では、ドライブゲームという特性から、見ず知らずの他人とでも対戦可能になっている。ただし、その場合でも「チャットができない」「プレイヤーレベルに応じたマッチング」「後の順位のプレイヤーほど有利なアイテムが出現する」などの配慮がなされているという。

 こうした工夫や配慮に加えて、無料のアクセスポイントをゲームショップやファーストフード店など、一般の人が集まる場所に設置して、ゲームの体験版を配布した。このように徹底的に参入障壁を取り除いた結果、今日のような爆発的な普及が実現したというわけだ。大原氏はこれが「任天堂の考える破壊的イノベーション」だと述べた。

 その後ニンテンドーWi-Fiコネクションの技術的な側面についても触れられた。同システムではローカルIP環境にあるニンテンドーDSが、無線LANルーターを経由して、P2Pで接続される点に特徴がある。そのため当初からNAT越えの通信をどのように行うかが技術的な課題とされていた。全世界のNATルータ(いわゆるブロードバンドルータ)を1つの手法だけでカバーするのは難しく、世界規模でのユーザーテストが必須となる。そのため「どうぶつの森」をモチーフにしたPCのデスクトップ時計ソフトを雑誌の付録などで配布。その中にNATテストを行うためのプログラムを入れ、ユーザー合意の上でテストが行われた。

 また実作業で発生したトラブルとして、ニンテンドーDS用のTCP/IPのソケットライブラリについて紹介。同ライブラリは2004年から開発が始められ、ほぼ完成していたが、「おいでよ どうぶつの森」「マリオカートDS」のプログラム開発が進むにつれ、用意されたライブラリではメモリが不足してしまった。そのため急遽、別のライブラリを開発する必要に迫られ、対外的なドキュメントのリリースなどが遅れたという。この点について大原氏は会場でデベロッパーに対して謝罪した。

 本プロジェクトは岩田社長の直轄による、社内横断的なプロジェクトチームで進められ、具体的な仕様は2005年から策定された。岩田社長も自らほぼすべてのミーティングに出席。日本側でクライアントアプリケーション、アメリカ側でサーバのコーディングが行われ、ビデオ会議などを駆使して開発が進められた。「マリオカートDS」では世界同時でβテストを開催。「同期の顔を思い浮かべながら対戦するのは非常に新鮮だった」(大原氏)。βテストには岩田社長も参加し、仕事ながらとても楽しいテストだったという。

 ニンテンドーWi-Fiコネクションでは、現在2007年までにコナミの「ウイニングイレブン」最新作など、約40タイトルが開発されている。今後はマッチング機能のほかに、アイテムのダウンロードなど、機能拡張が進行中とのこと。また同社の次世代コンソールであるレボリューション(仮称)についても、オンラインを利用したおもしろい機能を企画中だという。ただし「一度はネットワークにつなげて遊んでくれる」という目標はまだ完全に達しておらず、そのためには全世界のパブリッシャー、ディベロッパーの協力が不可欠だと締めくくった。

 ニンテンドーWi-Fiコネクションの成功は、既存のサービスの問題点を原点に立ち返って徹底的に洗い出し、一つずつ解決していったことと、社長直轄のプロジェクトチームによる開発体制、さらにはインフラ側とコンテンツ側の相互交流にある。補足するなら、定番の題材でも原点に立ち戻り、問題点をつぶしながら、ゲームデザインの飛躍を行うのは、日本のゲーム開発のお家芸でもある(スポーツゲームなどのジャンルでしばしば見られる)。理想的なシステム開発の図式であることは言うまでもないだろう。サードパーティ、またゲーム業界以外でも多々参考になる事例だと思うのだが、どうだろうか。
(小野憲史@RBB)
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