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★ Slash Gamesは、2007年6月1日より「インサイド」になりました
[AOGC2006] 「匿名事業組合」で人脈を広げた「Maru-Jan」のシグナルトーク
2月14日
アジアオンラインゲームカンファレンス(AOGC)を主催するブロードバンド推進協議会では、過去にオンラインゲーム開発の資金調達についての研究会をいくつか開催している。映画の制作委員会方式や、政府が進めるLLP(有限責任事業組合)など、制度や方式の仕組みについて講演が行われていた。
そして今回のAOGCでは、ついに“実践事例”が紹介されることになった。シグナルトークコーポレーション代表取締役社長の栢孝文氏はセガ、ソニーコンピュータエンタテインメントを経て独立、しかし自己資金は20万円ほどだった。栢氏は匿名事業組合方式で5,460万円を調達。ネットワーク麻雀ゲーム『Maru-Jan』を開発、収益軌道に乗せた。
シグナルトークコーポレーション代表取締役社長 栢孝文氏
栢氏はゲーム業界のトップ企業で働いていた。独立を志すきっかけは日本のゲーム産業に危機感を抱いたからだという。開発費の高騰、続編主義、低賃金による人材流出、外国製ゲームの日本進出による国産ゲームシェアの低下……。これらはゲーム開発者にとって外側の要因であり、優秀なゲーム開発者が頑張っても解決できない部分だ。栢氏はゲーム業界を革新したい、と語った。しかし、ゲーム開発者とプレイヤーがよりよい関係を築くことは、改革というよりもゲームの原点だ。栢氏はあえて、ベンチャーという手法でゲームの本質を追究しようとしたわけだ。
『Maru-Jan匿名組合』は、栢氏が社長を務めるシグナルトークコーポレーションが組織した。匿名組合員が出資し、ネットワーク麻雀ゲームASP事業に出資。その収益を出資者に配当する仕組みになっている。事業予算はサービス開始前のゲーム開発費、サービス開始後のゲーム開発費、広告宣伝費、固定運営費、匿名組合設立にあたっての経費で、これらすべてを匿名組合員からの投資で賄う。ゲームが完成するまで、ではなく、サービス開始後、収益が軌道に乗るまでの運営費も含めた部分がポイントだ。集客が予定数に達するまでは、人件費やバージョンアップ、サーバ運営費が赤字になってしまう。損益分岐点を設定し、その時点までにかる費用を投資額とする。
設立趣意書には、売り上げ目標達成時のバランスシート、収益の70パーセントが組合員へ配分されること、しかし、リスクもあることが詳細に説明された。投資リスクは、有料利用者の伸び悩み、競合他社への流出、ハッキングを含むシステムのトラブル、開発スケジュールの遅れ、経営陣の事故や病気などがある。『Maru-Jan』の場合、このうちの開発スケジュールの遅れが実際に発生した。しかし、開発状況を逐次詳細に説明して組合員に了解を得たという。トラブルがなくても、栢氏は月に一度、プロジェクト報告のメールを送っていた。これは匿名組合を組織するための法的な義務はない。しかし、出資者と運営者の信頼性を高めていくために必要なことだ、と栢氏は強調する。
実際にプロジェクト報告のメールの一部が公開され、開発スケジュールや試作版の提供だけではなく、営業でいつ、誰に会ったかが詳しく書かれていた。このほか、経費の仕訳帳まで公開されているという。また、この報告書のレスポンスとして、「組合員から売り込み先を紹介していただいたり、機材の仕入れでよい条件をいただいたり」と、人脈が広がっていったそうだ。栢氏の表情からは、投資家への義務や責任だけではなく、コミュニケーションを楽しんでいるような印象を受けた。投資家は机を並べないパートナーだ。
匿名組合方式にはデメリットもある。プロジェクトについて情報公開が必要、出資金が資本金に組み入れないため企業としての信用力はつかない、新しい資金調達手法で実績が少ないため、投資会社(機関投資家)の理解を得にくいなどがある。しかし、栢氏の今日の第一印象から判断して、プロジェクト内容の報告は別の投資方式でも行われたはずで、この方式だけがリスクだというわけではなさそうだ。投資会社の理解が得にくい、という部分も事例が増えれば時間が解決するだろう。
では、企業の信用力が補強されない部分は栢氏にとってリスクなのか。クリエイターが納得のいく作品を作り、多くのプレイヤーに支持される。それが今回の事業なら、企業の信用力はリスクと感じないのではないか。それを質問してみたところ、「確かに、資本金として銀行からの借り入れに担保が必要か否か、という部分はリスクではない。しかし、現在12のポータルサイトと契約しているが、何らかの事情で契約できない、取引に至らない場合もあり、それはもしかしたら資本金など企業の信用力が、先方の条件に当てはまらないことにあるのかもしれない」という。
シグナルトークコーポレーションは匿名組合方式で事業を成功させた。しかし、次の事業で同じ手法を取るかどうかは未定だ。「匿名組合を作りたかったのではなく、ゲームを作りたかったわけですから」という。現在は社内で若い人材に企画書を書かせたり、新しいアイデアを持つアマチュアプログラマーとのコラボレーションも始めているという。シグナルトークコーポレーションは、投資を受けるだけではなく、投資する側にもなりつつあるようだ。
(杉山淳一@RBB)
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