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字幕.inの法人化してもコンセプトは変わらず――社長 矢野さとるに聞く
――Flashで同期のサービスが作れるよね。
もともとは、矢野氏のこの発想からサービスが作られた。字幕.inは、YouTubeなどの動画に字幕を付けるサービス。いろいろな人が、文字通りの翻訳字幕や自分の視点で動画に字幕を付けられるほか、突っ込みもできる。万人がブロードバンド時代の日本で、しかも日本語という熱い壁で保護されていた日本だからこそありうるサービスなのかもしれない。
――字幕.inを開始以後、ビジネスとして使いたいという問いあわせが増えた。そうした案件にスムースに対応するために法人化したほうがいいんじゃないかと感じた。
字幕.in 代表取締役社長 矢野さとる氏
日本語ローカライズという壁がある日本では、世界に向けて発信されているちょっとした動画を楽しみたいということすらできなかったが、そこに「オレがやってやるよ」的なアプローチでインターネットを通して字幕サービスが広がっていった。そして、ビジネス用途で字幕を使うというシチュエーションが生まれたわけだが、字幕.inを作った矢野氏は当初そんな世界ができることすら想定していなかったという。
――そもそも、字幕.inは損得抜きで考えられる個人がおもしろそうと感じたから作れたサービス。特別に会社作ってやろうとか、これで勝負かけてやるということではないんです。サイトを作って世間にこのサービスどう? と問いかけたら、反応があったので、それなら会社にしてみようということで会社になったんです。
と、字幕.inの設立を矢野さとる社長は語る。法人化は、あくまでニーズに応えるソリューションのひとつだったわけだ。また、ビジネスを意識していなかったサービスを、ビジネスとして考えるようになった理由を以下のようにも述べている。
――問いあわせが多いということは、字幕.inのサービスを通して各社と協業すると意味がありそうじゃないですか。そして、字幕.inの会社化で収益があがってくれば、これまでは一人で字幕.inを運営していたことが、分散できるようになるでしょう。そうなれば、僕自身は本来個人で実現したかったことに特化できるんです。
夢を実現するための法人化
字幕.inというサービスに対して、開発者として一定の責任を果たしつつ、自分のやりたいこともできるようにする。法人化はまさに矢野氏にとっては必然ともいえる選択だったのかもしれない。また、こうもいっている。
――会社化したからにはいままでの字幕.in以上の機能を投入したいことはありますが、それは字幕.inの会社でやってほしい。そして、字幕.inが各社との間にはいって、僕に新たな出会いが生まれて、新たな発想が生まれることがいいんです。
自分のやりたいことに集中したいといっても、自分の殻に閉じこもるわけではない。字幕.inにあった反応をさらに連鎖させ、自分や会社にとって刺激となり発想が昼がることを期待している。はじめから会社や組織として活動を始めると、出資者や従業員に対しての責任から、ひとつの成功をさらに広げようとするより、利益や市場ポジションの維持が優先されるのはむしろビジネスセオリーだ。あえて、逆の発想で違うことをやりたいから法人化する。字幕.inは、スモールビジネスがうまく機能しているパターンでもある。
矢野氏が描く字幕.inのあるべき姿は、字幕を通して社会的に意味のあることをやっていく会社だ。
――無職の僕ですが、かつて勤めていた会社ではネットにものを出すまでの間に、非常にきびしくチェックしていた。それは、トラフィックは信頼によって作られていくという考え方で、当時の僕はそのことを理解してなかった。当時は、ネット世界ではとにかく作品を世に問うてから直していけばいいと考えていました。しかし、字幕.inが世の中に評価され始めると、今品質という意味合いがよくわかります。
ようはバランスですよね(本人談)
ということは、字幕.inはこれからきびしくチェックされて鍛ええられていくのかというと、決してそういうわけでもない。
――信頼性とサービスの投入はバランスですよね。字幕.inは比較的固めにおさえていきます。しかし、これからの僕のサービスすべてがかちかちの固めというわけではありません。サービス内容によっては、おちゃらけていたほうがいいものもあるので、そこは矢野さとるとして切り分けて提供していきます。字幕.inも最初は品質を重視するという考え方ではなかったのですから。しかし、学校や聴覚障害者の方に受け入れられていただくにつれて、考え方が変わりました。字幕.inは社会的に意味のあることで、しっかりとクオリティを高めないと。だからこそ、会社を作ったんです。しっかりとした人に品質を高めてもらおうと。
自分にはできないこと、協調したほうがいいこと、それらを冷静に判断した上で、やりたいことをやれる環境を作る。すべてを自分でやろうとする、あるいはやりたくないことはやらない、といった単純な図式ではなく、まさに「バランス」を重視した考え方だ。この感覚は、瞬間風速的に才能を現したり成功する人には実は不足しがちな部分だ。特に天才肌の人は、このセンスの欠如により時代や市場の「風」を読み誤ることがある。成功と没落のギャップの激しいパターンだ。
この手法は経営センスという意味でも有効と思われるが、実際どのようなサービスの展開を考えているのだろうか。
――字幕.inのサービスは、企業がウェブ上で字幕を使ってなにかしらのプロモーションをしたいというときに、開発やシステム面でたずさわるというものです。また、字幕.inの仕組みは、教材としても使えると思っています。何度も映像をみながら、学習するということにも向いているかなと思います。そんなところから、神田外語グループ主催のコンテストに使ってもらうことが決まりましたし、学校関係からも問いあわせを受けていてます。そうしたニーズを取り込みながら、商品を作っていき、最終的には商品をそのまま使ってもらえるようにしたいです。
なるほど。字幕.inのしくみはサービスの土台であって、裏方的な存在ということだろうか。字幕.inの上で実現される「サービス」こそがビジネスにおいて価値があるという認識といえる。これも根っからの技術者だと、どうしても自分の技術にこだわり、ユーザーが実はどこを評価しているのか間違えやすいのだが、非常に冷静な見方ができるということだろう。
そういう意味では、最初はB2Bビジネスを見据えた展開になる。それではコンシューマ向けサービスはなくなるのかというと、そんなことはない。
企業からの問い合わせが多く、字幕サービスの可能性が広がった
――今回、さまざまな方と字幕という仕事を通して得られたことを、今の字幕.inにも機能追加で戻していき、よりみなさんに使ってもらえるものにしていきたい。たとえば、字幕を出すタイミング設定はビジネスを通してかなり改良したので、改良版は早めに字幕.inにも実装したい。字幕のプロの方々にも喜んで使ってもらえるようなものにしたいんですよ。なかなか日本では翻訳されずに多くの人が見られない海外の映像をネットの力を使って字幕.inで翻訳していち早く世の中に出せれば、それはそれでいいですよね。また、字幕の次はやはり音声ですかね。音声を差し替えられるといいですよね。
映画の字幕を一般のユーザーにも開放するようなシステムを考えているのかもしれない。アカデミー賞で話題となった映画「バベル」で日本語のセリフ部分に字幕がなかったという問題も、もっと簡単に解決できるようになるだろう。
続いて、法人化にあたってのパートナーについて聞いてみた。資本金は50万円であるが、そのうち2%をGMO Venture Partnersが2%出資している。
――字幕.inの会社化はお金が目的ではないんです。でも、会社である以上、ファイナンスや経営面、営業面で相談できるところとしてGMO Venture Partnersに加わってもらいました。しかし、僕にとって大きなことは、Web2.0に関してご理解いただけるペパボの家入社長(GMO-VPが運営するBLOG BUSINESS FUNDのアドバイザリーメンバー)とご一緒できるということもあります。このことは、今後の矢野さとるのサービス全体に大きな影響を与えてくれるはずです。
企業にとっては大金とはいえないであろう50万の資本でも、全額ではなく2%というごく一部の出資しか受けていない。経営面でサポートが必要としても、字幕.inのすべてを出資者にゆだねるまではしない。かつ、人的なつながりがあってのパートナーということだ。
実際、字幕.inについて矢野氏が思っているビジネスポリシーは、
――字幕.inのように、社会貢献度の高いサービスは、トラフィックを生むことを重視すくよりも、クオリティを高めてそのコンセプトを世の中に知ってもらい、さまざまなところで字幕.inのつながりが広がることが大切。
だという。つまり、字幕.inは、その志を理解して参加を認められた人が集える一種のSNSの様な会社ともいえる。単にトラフィックやビューが目的の企業などはパートナーにはなりえない。そして、矢野さとる氏を中心としたサービス展開を実現する組織になっていくのかもしれない。
――これからは、動画の上にいろいろなものが付随していきます。字幕もそうですが、位置情報を付加させて、地図と連携させるサービスもあります。動画はそんなようにいろいろなものが付加していくんじゃないかと思います。そんなところにも追求していけると、ちがった展開が出てくるかもしれないです。しかし、僕は最初からビジネスありきで考えるのではなく、僕が面白いと思ったことをまずは作りたい。それを見た企業の人たちがこの仕組みを商品やサービスに取り入れたいと思ったときに、協業してくれればいいんじゃないかと感じています。
ここでもバランス感覚という言葉連想される。総合的にはいろいろなスキームを柔軟に受け入れるが、軸足は決してブレることがない。そうであるなら、いろいろな意見を取り入れすぎたり妥協の連続による、いわゆる迷走するようなことはしないはずだ。
最後に矢野氏が運営するsatoru.netと字幕.inやビジネスとの関係についても聞いた。
――今回は字幕.inが会社になりましたが、ほかにもサービスとして認められるものが出てくるならば、それが次の会社として成り立つかもしれません。
という。しかし、それは矢野氏が会社を束ねる頂点に立ちたいわけではなく、矢野さとる個人として、もっと新たなサービスを作り出す時間を確保するために、定着しつつあるサービスは会社化して、そのステージで最高のプレイヤーにプレイしてもらうという感覚が強い。
――ビジネスっぽいものはつくりたくないんです。上場したいとか、売却益がほしいという感覚は、僕自身は強くありません。とはいえども、お金ということを全く無視して進められるものでもないので、そういった部分は会社にまかせたい。僕個人はIPOをめざすよりもALEXAで10位以内に入るような社会的に意味のあるサービスをめざしたい。
ALEXAは、世界のウェブサイトランキングを独自に集計しているサイトだ。一般的には、ただ人気やPVだけではないリテラシーの高さのランキングに近いという評価のあるサイトだ。成功の「総量」を、PVや純利益といったようなわかりやすいものではなく、「付加価値」(代替不可能性といってもいいかもしれない)の高さで判断してほしいということだろう。
今回のインタビューで、新しいサービスを開発した「時の人」というより、まだ存在しない未来のサービスが、気がつくと矢野氏の手によるものだった。そんなタイプの成功者ではないかという思いを強くした。
(公家幸洋@RBB 2007年6月21日 18:51)
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