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Shoot it! - #032 スポーツマンの大先輩が見たEスポーツの良さ
5月31日
平田孝氏
 「人生の師」と呼べる人がいることはとても大切で、ありがたいことだ。スポーツの世界では、選手がコーチや先輩を師匠と慕い、生涯にわたって教えを請う存在となる。しかし、Eスポーツには師匠が居ない。数年の歴史を刻んだとはいえ、他のスポーツ種目の歴史には遠く及ばない。優れたEスポーツ選手が優れた指導者となり、師匠と呼ばれる存在になるにはまだまだ時間がかかる。

 しかし、始まったばかりのEスポーツにも仰ぐべき師匠はいる。平田孝氏、70歳。日本アマチュアレスリング創始者のひとりで、いくつもの世界選手権を制覇したのち、1960年のローマオリンピックにグレコローマン・フライ級で出場し4位入賞。その後はスポーツ指導者として多くの選手を育成、また教育者として子供たちにスポーツマンシップを教える「スポーツ道場」を主催。米国オレゴン州に居を移した現在も活動を続けている。子供たちへの指導のほか、講演会で指導者も指導する。平田氏は現役のスポーツ指導者だ。僕は彼が主催するスポーツ道場に小学3年生から高校卒業まで参加した。もう30年以上の付き合いだ。僕はスポーツマンシップを平田氏から学んだ。

 かつてのオリンピック選手、現在のスポーツ指導者の平田氏はEスポーツにどのような印象を持たれただろうか。

「良いと思うよ。何がいいかというと、子供たちが夢中になって遊んでいるゲームのなかに、スポーツマンシップを取り入れること。スポーツマンシップを学ぶ新しい方法のひとつになると思う。いまの日本にはスポーツマンシップが足りないよ。政治も親子関係も変になってる。スポーツの精神があればそんな問題は起こらないことばかりだよ」

 レスリングのように身体がぶつかり合うスポーツでは、肉体の限界を高め、相手の体温と気迫を感じ、そこから己を鍛えていく。そういう要素はEスポーツにはない。しかし、Eスポーツにしかない良さにも平田氏は気付いてくれた。

「僕がEスポーツでいいと思うのは、体力や身体に関係なく公平になるところだな。老人と子供が互角に戦える。足や手が不自由な人を区別せず同じステージで戦える。男女の区別だっていらないよね。これは生活にスポーツマンシップを活かす上でとても大切なことなんだよ。日常生活にはいろんな人が一緒に暮らしているからね」

 レスリングでは体重別にクラス分けが行われる。ほとんどの競技は男女別だ。世界大会に老人が参加することはほとんど無く、スポーツ=若者の祭典となっている。これはスポーツでもっとも重要な「公平性」を保つためだ。コンピュータを使ったEスポーツでは、身体的な差は入力デバイスで補える。だから戦略や集中力の競技に集中できる。

「アメリカの学校では身体障害者も徒競走で一緒に走るよ。そりゃあ勝てないかもしれないけれど、勝敗よりも“仲間が同じステージにいること”を重視するんだ。そして最後にゴールする子をみんな拍手で迎える。よく頑張った、とね。勝ち負けじゃなく、努力した子が褒められて、次にもっと頑張る。これが教育のあるべき姿だよ」

 平田氏にとってスポーツとは何だろう。スポーツマンシップとは何だろうか。

「それはね。相手に感謝するってことなんだ。レスリングは試合の前と後に握手をするでしょう。これは武器を持っていませんよ、とか、喧嘩じゃありませんよ、という確認の意味もあるけれど、僕が思うのは感謝なんだ。だって相手がいなくちゃレスリングはできないんだよ。相手がいるから勝負ができる。相手がいるから勝って嬉しい。負けて悔しい。僕の相手をしてくれてありがとう。これだよ」

 平田氏は今日まで通算650試合。マットに立ったばかりの27敗を除くとほぼ全勝。勝てるようになってからは、負けはオリンピックを含めてたった3試合だった。

「だって、世界でいちばん強い俺と闘ってくれる相手だよ。だから感謝しないと。誰も負けに来てくれないじゃない」と笑いながらウインクする。アメリカンジョーク?

 スポーツで培った交流は現在も続く。現在、アメリカのオレゴンに住む平田氏が来日すれば、かつての後輩、教え子が駆けつける。スポーツ指導者として活躍する仲間も多い。平田氏の時代、日本のアマチュアレスリングは世界でもっとも強く、日本国内でも実績が認められていた。そんな仲間たちと旧交を温める。スポーツマンシップで始まる友情は永遠だ。これはEスポーツマンもぜひ見習うべきところだろう。

「Eスポーツで日本と韓国の若者同士が仲良くなっているという話はいいね。オンラインで真剣に勝負して、年に一度みんなで会おうって。それはいいことだよ。そういうことはどんどん広げたほうがいい」

 そういう平田氏は選手時代、ライバルと交流することは無かった。

「だってお互い真剣だもの。馴れ合ったりできないよ。本気で倒すつもりなんだから。もちろん礼は尽くすけど、キッと相手を見据えて、倒すぞって気合いを入れるからね」

 しかしいま、そのライバルとの再会がとても楽しい。

「闘って手応えのあった相手のことは忘れない。実は何年か前、僕を負かしたライバルに会いに行ったんだ。奥さんを連れて会社を訪ねた。偉い人だから忙しいと思ってアポ無しで寄ったんだ。無理なら帰るつもりでね。ところがね、彼はちゃんと覚えていてくれて、たっぷり時間を空けてくれたよ。嬉しかったなあ。それから交流が続いているよ」

 平田氏は孤独とは無縁だ。そして豊かな人生を送っている。スポーツがあったからだ。

 ゲームを真剣に競技する。それがEスポーツ。Eスポーツがスポーツを見習うとするならば、“真剣”の奥にある、生涯の友を得るための強い結びつきを見習いたい。米国で始まったCPLの目標が「Play hard Go Pro(真剣に闘ってプロになれ)」、韓国発祥のWCGの目標は「Beyond the Game(ゲームを超えろ)」。では、日本のEスポーツの目標はなんだろう。日本のスポーツの先輩たちの言葉のなかに、その答を見つけ出せそうだ。
(杉山淳一@RBB)
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