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★ Slash Gamesは、2007年6月1日より「インサイド」になりました
Shoot it! - #15 チャットから始まるEスポーツマンシップ
1月23日
 柔道や剣道がスポーツであることは常識だ。レスリングもスポーツ。ボクシングもスポーツ。しかし、これらのルーツはスポーツではなかった。柔道は柔術、剣道は剣術であり、どちらも武士が身につけるべき殺人術だ。レスリングやボクシングのルーツもおそらく喧嘩のようなものだったはずだ。日本の国技、相撲でさえ、そのルーツを辿れば殺し合い。日本書紀に登場する野見宿禰が相撲の神とされているが、彼は垂仁天皇の命により、角力と呼ばれた格闘で相手の当麻蹴速の腰を折って殺したそうだ。地位を獲得するための闘いが相撲のルーツにはあるらしい。

 こうした殺人術が、どのような経緯でスポーツになったのだろう。

 柔道の起源はハッキリしている。明治15年に嘉納治五郎先生が柔道と命名し講道館を創設した。江戸時代から明治維新へと激動する中で、柔術は武士の心得として大発展した。しかし、明治維新後に武士制度がなくなると柔術の継承者はどんどん減っていく。このとき、柔術の絶滅を危惧した嘉納治五郎は、殺人術ではなく、心身を鍛える技として柔道を考案した。いくつもの柔術の流派から絞め技と投げ技の流派を研究して体系化、囲碁と将棋の段位制を取り入れた。講道館は現在も世界の柔道の総本山である。

 剣道は1895年4月17日に結成された大日本武徳会が興した。この日は日清戦争に勝利し、日清講和条約が結ばれた日でもある。戦勝ムードだった時期だけに、剣術を戦闘術の撃剣として復活させた。しかし、その後は柔道の成功を参考にして、学校の体育教育に採用できるよう稽古法を改め、大正8年に名前を剣道と改めた。レスリング、ボクシング、相撲も同様で、戦闘技術にルールを与え、競技として成立させたものだ。

 剣術と剣道の明確な違いは何か。柔術と柔道の違い、喧嘩とボクシングの違い、喧嘩とレスリングの違い、決闘と相撲の違いとは何か。それぞれにいくつも挙げられる事柄があるだろう。しかし、すべてに共通する要素がある。「礼に始まり、礼に終わる」という儀式である。日本では礼、つまりお辞儀であり、西洋では主に握手になる。これからあなたと戦うけれども、あなたに敵意はありません、という意思表示だ。

 では、Eスポーツはどうだろう。選手たちは戦う相手に礼を尽くしているだろうか。ゲームプレイヤーはライバルに礼を尽くしているだろうか。もちろんだ。なぜなら、それがゲームをスポーツとして楽しむ第一歩になるからだ。

 WCGやCPLなどの世界的な大会を観ると、闘いの終了後にほとんどの対戦者同士は握手をしている。決勝戦など重要な試合では、戦う前にインタビューの時間があり、その終わりに両者が握手をして席に着く。ゲームは喧嘩ではない。そのゲームが例え銃で撃ち合うゲームだとしても、それは戦う競技であって殺し合いではないし、ましてや相手に悪意を持っているわけではない。だから握手をする。勝っても負けてもお互いの闘いを讃えるのだ。勝って神経が高ぶることもある。負ければ悔しい。だから表情に笑顔はないかも知れないが、Eスポーツの選手たちは握手をするし、肩を抱き合うこともある。

Eスポーツ選手はチャットで礼を示す
 しかし、そういうアクションをしない選手もいる。黙って席に着き、黙って舞台から降りてしまう。そんな場面を目撃しても、選手が礼を欠いていると即断してはいけない。Eスポーツには握手やお辞儀に代わる礼の示し方があるのだ。選手たちのモニター画面を見てほしい。彼らはチャットモードで礼を示す。試合前は“GL”。試合後は“GG”だ。ゲームで戦った相手を讃える言葉である。“GG”はゲームアナウンサーが試合終了後に叫ぶこともある「ジィィィ!ジィィィ!」。実は私も「あの言葉はなんだ?」と思っていた。

 試合が始まる前の“GL”は“Good Luck”の略だ。幸運を。成功を祈る。がんばれよ。そんな意味である。この言葉は一般的にはお別れの言葉として使われるけれど、ゲームの試合では始まりに使う。現実の世界からゲームの世界に移って戦うわけだから、現実の世界ではしばしお別れ、という意味を含んでいるのかも知れない。

 試合が終わったときの“GG”は“Good Game”の略だ。良い試合だったね。頑張ったね。君と戦って良かった。そういう意味で使われている。当初私はGGの意味がわからなくて、“GoGo”の略だと思っていた。早く次の試合をやろうぜ? 急かすなよ……、と。でも、正しくはゲームの終わりの挨拶で、他に含む意味はない。もっとも、早く次のゲームをやりたい、という気持ちは誰でもあるようで、チャットで“GG”の応酬が続くと、誰ともなく“GG”が“GOGO”に代わることがある。そうなったらまた“GL”と交わして闘いが始まる。

 “GG”と“GL”。これがEスポーツプレイヤーたちの握手だ。どうしてボディランゲージではなく文字になったのかといえば、日常のEスポーツ競技はインターネットを介して行われるからだ。コミュニケーションの基本はチャット。だから挨拶や礼もチャット。日本国内のゲームポータルサイトでも“よろ”なんて挨拶をすることがある。“よろ”は“よろしく”の略で、“あり”は“ありがとう”の略。“おめ”は“おめでとう”の略。これと同じ。

 Eスポーツ、とくにインターネット対戦で競技する場合は、傍目から見ればひとりで遊んでいるようにしか見えない。だからオンラインゲームは孤独な遊びだと誤解されやすい。ましてや「相手の顔が見えないのに、スポーツマンシップが成立するだろうか」と思われるかもしれない。しかし、Eスポーツにスポーツマンシップは確かに存在する。GGとGLという“礼”は、そのほんの一例に過ぎない。Eスポーツを知れば知るほど、スポーツマンシップに関するエピソードがコレクションできるはずだ。

 重要なことは、GGやGLを挨拶とする習慣が、オンラインゲーマーの間で自然に発生し、広まり、定着したことである。Eスポーツという言葉が生まれる前から、Eスポーツマンシップは存在していたのだ。観客を集めたオフライン式の公式大会の場合は、GGとGLだけではなく、やはり礼や握手もあった方が良いと思う。それは大会主催者が選手に喚起すべきだろう。こういうことは、定着すれば誰もが自然にできるようになるのだから。

 もっとも、GGやGLというメッセージを交換することも慣れないと難しい。実は私もEスポーツスタジアムに選手として参戦しているが、GLとGGをスマートにタイプできた試しがない。そもそもチャットモードを起動するキーがどれだか判らなかった。しかし、これはやはりEスポーツ選手としては品格に欠ける行動である。私は反省しなくてはいけない。簡単な挨拶もできないのに試合のステージに上がってはいけないと思う。

 Eスポーツを楽しむなら、キャラクターの基本的な操作をマスターしたのち、直ちにチャットコマンドを覚え、礼を尽くす方法を学ぶべきである。実はそれはとても簡単だ。マニュアルを見て、チャットモードのキーを覚えればいい。今までの、ただ相手を倒せばいい、というゲームスタイルでは不要な操作というだけのことだ。チャットでGG、GLとタイプできるなら、そのゲーマーはEスポーツの入口に立ったと言える。これさえ理解できれば、今日からゲーマーはEスポーツマンになれる。

 ゲームにもスポーツマンシップがある。Eスポーツに詳しくない人にも、スポーツマンシップがあるならスポーツだと理解してもらえるのではないか。Eスポーツマンシップを理解してもらえたら、例えそのゲームが喧嘩に見えても、銃による撃ち合いを描写していたとしても、それはスポーツなのだと理解してもらえるかもしれないと思う。

 カウンターストライクやQuake、WARSOWのような銃撃戦ゲームもスポーツマンシップに乗っ取って戦えばスポーツだ。嘉納治五郎先生を見習って、銃撃戦ゲームを“銃道”と呼んでもいいのではないか、と私は真剣に思っている。

私がかつてmixiのコミュで提案した「銃道」。いかがでしょうか?

(杉山淳一@RBB)
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