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[AOGC2006]オンラインゲーム運営と「ゲーム内経済学」の視点 -国際金融情報センター山口氏(後編)
1月26日
2月に開かれるオンラインゲームに関する国際カンファレンス「AOGC2006」。そのセッション「『ゲーム内経済学』とその意義」の講師、財団法人 国際金融情報センター山口浩氏にお話を聞いた。山口氏によれば、経済学をツールとして利用することで、オンラインゲームの内外に発生する様々な問題をよりスムーズに扱えるようになるという。その後編だ。
財団法人 国際金融情報センター山口浩氏
− 最近では新しいビジネスモデルとして、アイテム課金という形態も広まってきていますね。アイテム課金においても有効な経済学の視点はありますか?
山口:アイテム課金によるビジネスモデルは、経済学でいう消費者余剰アプローチで捉えられます。月額課金というのは、一ヶ月の間でどれだけ遊ぶ人がいても、逆に遊ばない人がいても、料金は同じなので、遊べば遊ぶほどユーザーが得をするモデルです。一方でアイテム課金は、無料で遊べるにもかかわらず、もっとお金を払ってもよいと思っているユーザーがいて、そうしたユーザーから余分にお金をもらうことで全体の収益を拡大するというモデルです。実際に「オンラインゲーム白書」では、月額課金よりもアイテム課金モデルの方が、ユーザー一人あたりの料金が高くなるというデータが出ていました。
− そうですね。
山口:ただ、あるゲームがあって、月額課金が良いのかアイテム課金がいいのかの判断や、あるいは双方をどう組み合わせたら収益を最大化できるのか、といった話は残念ながら現時点ではできません。これは、判断の基準となるデータがないからです。ゲーム会社の方々の協力をいただいて、そうしたデータを蓄積したり共有できないか、会場で積極的に提案したいところですね。
− データはないけどツールはある状態、ということですね。
山口:そうだと思います。また、実際にエコノミストでこうした分析を、ゲームの分野できちんと行っている人は、国際的にもなかなかいないと思います。ちなみに現実世界では、消費者余剰のモデルは公共料金や航空券の価格設定などに使われています。航空券の価格設定って、今では早割や超割などの格安チケットがある一方で、ビジネスクラスやファーストクラスがあったり、ものすごく複雑に分かれていますよね。これは「高くても良い席で乗りたい」という個々のニーズに答えることで、全体の収益を最大化する戦略なんです。
ゲーム会社がこれを行っている例が、一つはアイテム課金なんでしょうし、月額課金でも会員種別を複数作って価格帯を分けていくという考え方もあり得るでしょう。こうした経営学的な考え方やツールを、もっとゲームビジネスにも応用してはいかがですか、というイメージです。
− 他に山口さんは、以前MMORPGの経営学的な講演の中で「楽しめる経済」という視点を提唱されていましたね。MMORPGはシリアスゲーム的な見地からも関心が持たれているので、うまく関連づけられると面白いなと思いますが、今回の講演の中で触れられる予定はありますか?
山口:どうでしょう。全体の時間が限られていますから。ただ、そういう要望があるようなら検討します。
− 実はゲーム開発者の中で、オンライントレードを使って株の売買をしている人が意外と多いんです。株は資本主義社会における最大のゲームだと言う人もいます。そこではユーザーが経済を楽しんでいます。まさに「楽しめる経済」です。
山口:オンライントレードはインターフェースがゲームと非常に近いですからね。それはなんとなく理解できます。本来は株取引などの投資も、危険な行為ではなくて、楽しい行為のはずなんですよ。そこはゲーム業界ではなくて、金融関係の人に向けてメッセージを送りたいところですね。金融業界はこれまで、いかに消費者を守るかとか、違法行為を取り締まるかとか、そういったことには強い関心を持ってきましたが、楽しめる金融を作る、という点には関心がありませんでした。僕などは、もっと普通の人が安心して投資を楽しめる仕組みを作った方が、いいと思うんですけどね。
− まったくその通りですね。
山口:たとえば、最近ライブドアの株式分割の手法が錬金術として批判されています。ライブドア云々はともかく、私は株式分割自体は肯定的なんです。というのも、仮に1株500万円で買った株券が暴落して250万円になったとしたら、投資家にとって大きな損害ですが、これが1株が500円の株式だったら、それが半分になっても250円の損ですみますよね。そうした非常に安い株式を、多くの人が買って支える会社というのは、充分ありだと思うんです。
実は今までリスクのある商品を消費者に勧めることは良くない、だから投資商品の取引単位を高く設定してプロしか参加できないようにすべきだ、という指導が日本では行われてきた経緯があります。でも、私はむしろ株券の単価を下げて、損をしても数百円からですむようにする。そのうえで1回5万円までしか売買できない、といったように、取引の上限を制限する方が安全なのではないか。そんな考え方があってもいいのではないか、と思うのです。
− それはおもしろいアイディアですね。
山口:もうひとつ取り組んでいる研究テーマに「予測市場」というものがあります。これは仮想通貨を使って市場取引を行うことで、市場メカニズムを解明するというものです。これはまさにMMOゲームです。ですから「予測市場」の世界と、現実の金融市場と、MMORPGは、すべてが地続きで繋がっているように見えるのです。ポイントは金融の技術で、世の中をもっと楽しく、おもしろくできませんか、ということなんです。
− 今までの話をまとめると、今回の講演サマリーは「MMORPGをとりまく世界には、内にも外にもさまざまな経済的な問題があり、現在の対策はあまり功を奏していないように見えるが、経営学的な視点やツールを用いることで、さまざまな意味で価値の向上を生むことができ、なおかつそこで得られたモデルは、現実経済においても応用できる可能性がある」といったイメージになりますね。
山口:はい。ただゲーム世界が現実世界と繋がると、現実世界の責任の一端をゲーム会社も負わなければならない、という問題も出てきます。たとえばゲーム内アイテムや通貨、キャラクターなどがサーバ上でロストした場合、誰が補償をするのか、といった問題などですね。アメリカでは「Second Life」のようにゲーム内アイテムの価値を運営側が補償する例や、「Project Entropia」など、運営側がユーザーからアイテムを買い取る例も出てきています。
(年末年始に起きた)楽天ポイント問題のように、ゲーム内経済と現実経済が重なることで、セキュリティ面に対するコストも増大するでしょう。ゲームの持つ社会的な意味が増加していく一方で、さまざまな意味でゲームを取り巻くフェーズが変わっていくと思います。
− 今までゲーム業界は、そういった問題を考えなさすぎでしたからね。そうした意味からも、MMORPGの運営において経営学的な視点や分析は必要だと言えそうです。
山口:ええ。MMORPGとはいえ、そこに社会がある以上、その社会をどのように運営していくかという「経世済民」的な思想は必要なんじゃないか、と思います。
− 当日の講演を楽しみにしています。ありがとうございました。
(小野憲史@RBB)
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