ネットワーク対戦ゲームのオリンピックが始まった
―World Cyber Games 2002 日本予選 〜最終日―
2002年10月5日〜6日
■「ハーフライフ: カウンターストライク」の
勝者はD2!
World Cyber Games 2002 日本予選2日目最終日の6日はハーフライフ: カウンターストライクの決勝。団体戦のためチームごとに席が割り当てられた。選手達はみな普段着で参加しているが、その中に、おそろいの黒いディーシャツを着た精悍な集団がいる。その背中には大きく「D2」のロゴ。そう、彼らこそプロゲーマーを目指すクラン“DeadlyDrive”だ。2年前に韓国で世界を見た“BRSRK”と、クランリーダーの“KRV”の姿があった。KRVは昨年の大会に「クエークIII」で出場している。今回の戦いに勝てば3年連続出場となる。
ハーフライフ: カウンターストライクは日本でも多数のゲームプレーヤーがいて、自主運営のトーナメント試合「JCCT(Japan Counter-Strike Clan Tournament)」など、ゲーム大会が頻繁に行われている。DeadlyDriveはそれらの試合で常勝グループとして名を響かせるまでに成長していた。観客も取材陣も、この試合はDeadlyDriveがラクに優勝するだろうと思っていた。しかしその予想は第一試合から裏切られた。第1試合でDeadlyDriveの前に立ちふさがった強力なライバル“Chaos vs Order”が、この日のドラマを歴史に残すことになる。
ハーフライフ: カウンターストライクは射撃戦だ。ひとつのゲームの決着まで3分程度。そこで、ゲーム大会は1試合を24ラウンドとし、前半12ラウンドと後半12ラウンドでテロリスト役と特殊部隊役を交代する。ただし、どちらかが13ラウンドを勝利した段階でゲームセットとなる。24回も戦えば、チーム同士の戦力差によってスコアが開いていく。24ラウンドをフルに戦うことは珍しい。しかし、第1回戦の“DeadlyDrive対Chaos vs Order”の試合は24ラウンドに達し、結果はなんと12対12の引き分け。会場がどよめく。
Chaos vs Orderはまったく無名のクランだ。それは当然のことであった。なぜなら彼らは「打倒!DeadlyDrive」を合言葉に集結した、有力クランからの選抜チームだからだ。結成は約1週間前。しかし、1年以上も活動しているDeadlyDriveと同じくらい見事なチームワークを発揮していた。リーダーの“Xray”は「この日のためにネットカフェに集まってトレーニングした」という。即席チームでDeadlyDriveと互角に戦うためには、個々のスキルの高さに加えて、強いリーダーシップが求められるはずだ。「向かうところ敵なし、DeadlyDriveの圧勝」という予想は崩れた。
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即席チームChaos vs Order。彼らの活躍がなければこの日のドラマは成り立たなかったかもしれない
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引き分けで終わってはトーナメントが成立しない。そこで、6ラウンドの延長戦が実施される。しかしその結果も3対3。マシントラブルの中断をはさんで、再延長戦6ラウンドを実施。だがこれも3対3となった。決着がつかない。両チームの表情に苛立ちが混じる。勝ったとしても、そこから優勝までに多くの試合が残っている。ここで疲労するわけにはいかない。負けたらどうなるか――。決勝戦に返り咲くためには「決勝トーナメントよりも試合数が多い敗者トーナメント」を勝ち進む必要がある。
休憩ののち再々延長戦は4対2。DeadlyDriveの勝利となった。ここまでの経過時間は3時間半。トータル42ラウンドの長期戦であった。通常なら2試合分になろう。ネットワークゲームは指先だけではない。体力も必要だ。まさに“e-Sports”だ。
そして運命の決勝戦。順調に勝ち進んだDeadlyDriveと対峙するチームは、予想どおりChaos vs Orderだ。ダブルイルミネーション敗者リーグのどん底から這い上がってきた不死鳥。彼らの眼光は鋭く、表情もスタイルも良い。そして強い。男から見てもカッコイイ男たちだ。いまや会場内の誰もが、新しいヒーローの誕生を受け止めていた。
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カウンターストライクは、ゲームソフトを持っている人なら観客モードでサーバに入れる。ゲームメーカーも“観戦”を意識したソフト作りを始めている
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決勝試合開始。ハイレベルな戦いは観戦していても面白い。チーム戦ではおとり役、突入役、そして支援射撃を行うスナイパー役に分かれて戦う方法がセオリーだが、DeadlyDriveの“ENZA”と“RELOAD”、Chaos vs Orderの“Xray”と“sharK'z”の射撃は見事だ。動きながらも相手の頭を次々と撃ち抜いていく。手榴弾や照明弾でかく乱したり、足音を立てないようにゆっくりと移動して相手に近づくなど、観客も固唾を飲んで見守っていた。しかし、ここでアクシデントが起こる。
DeadlyDriveのリーダーKRVが「音が出ない、バグだ!」と叫んで手を上げた。試合中断。審判が駆け寄りKRVが立ち上がる。テロリスト側のChaos vs Orderが爆弾をセットしたところ、爆発まで鳴り続けるはずのアラームが聞こえないのだ。実はこれはゲームプログラムのバグで、ユーザのあいだでは有名なプログラムミスだ。爆弾を壁にめり込ませるような位置でセットすると、アラーム音が壁の中に閉じ込められて聞こえない。これでは特殊部隊は爆弾の位置がわからず、ゲームとしては不公平になってしまう。非公式試合ではこのバグを意図的に使うチームもあって、卑怯な技として非難の対象となってしまう。それほどの重大なミスをChaos vs Orderが犯してしまった。
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| “爆弾埋め込みバグ”で試合は一時中断。両チームのリーダーが呼ばれて事情聴取が始まる。トラブル処理には運営者も力量を試されるのだ |
協議を続けるオフィシャルたち。彼らもプレーヤーだけに、選手達の気持ちが痛いほどわかる。苦渋の決断が迫られている |
これまでの戦いを見てChaos vs Orderが卑怯な手段に出るはずがない。しかもこれだけ観客がいる前でズルイことはできないはず。観客の誰もがそう信じた。しかし、結果的には不公平であることに変わりはない。協議の結果、Chaos vs Orderがダメージを受けることで決着した。だが、それは観客にとっても、Chaos vs Orderにとってもショッキングなものだった。マップの中央に両チームが集まり、審判の合図でChaos vs Orderのメンバーがひとりずつ前に出て、無抵抗で殺されなければならない。それはさながら“公開銃殺”であった。ゲーム中の殺し合いは楽しんで見ていた観客たちも、このシーンを見たあとは沈黙してしまった。勝負の厳しさを再認識したからだろうか、それとも、ゲームとはいえ、痛ましい場面を見たからだろうか……。
その後試合は再開。13対6でDeadlyDriveの勝利となった。立ち上がって喜びに沸く勝利者。対照的に席から離れない敗者たち。Chaos vs Orderの“coooool”は一言「疲れた」とつぶやいたきり、口を閉ざした。負けたら解散、と表明していた。しかし、常勝チームに対抗できる唯一のチームとして、会場にいたすべての者が讃えていた。解散してはもったいないと思うのだが……。
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| 優勝が決まった瞬間のDeadlyDrive。ラウンドが終わるごとに声を上げて士気を高めていた。努力が報われた喜びは大きい |
表彰式で喜びを表す。おそろいのTシャツを着るほどの連帯感。胸のロゴは「お世話になっている会社です」 |