ネットワーク対戦ゲームのオリンピックが始まった
―World Cyber Games 2002 日本予選 〜初日―
2002年10月5日〜6日
東京・秋葉原のネットカフェ Necca秋葉原店は、普段とは違う緊張感と熱気に包まれていた。普段のこの店は、過剰なほどの蛍光灯のせいで眩しいくらいに明るい。しかし今日は違う。店の半分から奥は蛍光灯が切られ、つきあたりの壁には大きなスクリーンが下げられている。そこには対戦中と思われるゲームの画面が映し出され、アナウンサーと解説者による実況が行われていた。これはオンライン対戦ゲームのワールドカップ「World Cyber Games」の日本代表選手を決める予選大会の決勝戦である。スクリーンを静かに見守る観客たち。いま、日本で一番強いプレーヤーが決まりつつある。それは日本で一番強い選手の誕生であると同時に、強き者が世界の舞台に足をかける瞬間だった……。
■2回目を迎える“サイバー空間のオリンピック”
いまやPC用のゲームソフトはネットワーク対戦が主流。その傾向は世界的なもので、もっとも盛んな国は発祥国のアメリカとIT急進国の韓国だ。世界最大のネットワークゲーム大会「World Cyber Games」は、韓国のサムソングループが2000年に旗揚げしたビッグイベントである。初めて開催された2000年はいわば“お披露目”的な要素のイベントで、韓国内の有名選手と世界から招待された有名プレーヤーが大勢の観客の前で戦った。
本大会は2001年から、そして今年は第2回大会である。決勝戦は2002年11月3日に、韓国の大田(デジョン)市にあるエキスポパークで開催される。ここに世界45か国から約500人のトッププレーヤーが集結し、世界一の座を競うのだ。つまり、秋葉原の予選大会は、日本一を決めると同時に、世界の舞台に立つ選手を決める戦いであった。日本予選の結果はその日のうちに公式Webに掲載され、戦いのようすはストリーミング放送としても実況中継された。この戦いに関心を持つものは日本人だけではない。世界45か国のプレーヤーが、インターネットを通じて日本の予選を見守っていたはずだ。その戦いの模様を報告する前にWorld Cyber Gamesをもう少し詳しく紹介したい。
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試合の模様はビデオストリーミングで放送された。画面ではわからないが、音声はアナウンサーと解説者による実況中継だ。会場は観客席がないため、じっくり観戦したいならストリーミングのほうが楽しめた ※クリックで拡大表示
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韓国で「ネットワーク対戦ゲームの世界大会を開こう」という気運が高まった背景として、“プロゲーマー”の存在がある。プロゲーマーは文字どおり、ゲームで戦って稼ぐプロフェッショナルプレーヤーだ。韓国のプロゲーマーについては当サイトのコラムにも詳しく紹介されている。韓国で盛り上がったプロゲームリーグが最高潮に達したとき、プロゲーマーと彼らを取り巻く人々の中で次の目標が生まれた。それは「世界最高のプレーヤーになりたい」というものだ。韓国では国が主催するネットワーク対戦ゲーム大会がある。もちろん賞金がかかっている。大きな試合はテレビで中継される。ここまで盛り上がった国は、実は韓国をおいて他にない。韓国のプロゲームリーグ関係者は、いまなら世界の頂点に立てる! と見込んだに違いない。
実は、ネットワーク対戦ゲームの大会は韓国の専売特許ではない。米国には歴史あるゲーム大会「クエークコン」がある。これは世界的なブームを作った対戦シューティングゲーム「クエーク」の最強のプレーヤーを決めようと、このゲームの開発元が主催しているものだ。ここには全米、そして世界中のプレーヤーが集まる。もうひとつは「CPL(The Cyberathlete Professional League)」で、こちらはゲームフリークたちが主体となって運営され、種目もゲームプレーヤーたちの流行が反映される。AMDがインテルに対抗してx86互換プロセッサ「K6」を登場させたとき、これらのゲーム大会に多額の賞金を提供して話題になった。ゲームはプロセッサに高い負荷をかける。ゲームユーザたちにブランドを浸透させれば、互換性の証明とブランドの普及が狙える。その効果は大きかった。しかし、これらのゲーム大会は海外からの参加者を歓迎したものの、米国国内の大会である。一方、World Cyber Gamesは当初から世界大会と定義されている。そこが他のゲーム大会とWorld Cyber Gamesの大きな違いだと言える。
World Cyber Gamesの運営団体は韓国のICM(International Cyber Marketing)となっているが、実質的にはメインスポンサーであるサムソン電子の強い意向が反映されているようだ。AMDがゲーム大会のスポンサーとなった経緯と同様に、サムソン電子は世界に対してブランドイメージを訴求しようとしている。億単位の開催費用を負担し、韓国以外の参加各国とは現地のスポンサーと共同で運営する形を取った。いまや欧米で“コリアン・ソニー”と呼ばれるサムソン電子は、ネットワーク対戦ゲームというコミュニティを最大限に活用して、ブランドの浸透とビジネスチャンスの拡大を狙っているのだ。そのためにサムソン電子が投じた資金は膨大なものだ。World Cyber Games決勝大会の賞金総額は3,000万円以上になるが、それはほんの一部にすぎない。
だが、世界のオンラインゲーマーたちにとって、サムソンの思惑などはどうでもいい話だ。彼らはいつも強くなりたいと思っている。そして、誰が強いプレーヤーかを知りたがっている。レベルの高いプレーヤーたちは、世界で一番強い者は誰かを知りたい。自分より強い者を知りたい。ならば、決着を付けようではないか? その気運が高まったとき、グッドタイミングでWorld Cyber Gamesという舞台が提供されたというわけだ。そしてWorld Cyber Gamesは彼らをこう誘った。「これは単なるゲーム大会ではなく、ネットワークを介して競う“e-Sports”だ、キミたちのオリンピックなんだ」と。
国際交流、スポーツマンシップ、世界の晴れ舞台。ゲームというマニアックな世界は、こうして世界の表舞台にデビューした。e-Sportsという言葉が、ゲーマーたちに新しい目標と誇りを与えた。それは、彼らが漠然と望んだ世界の具現化だった。
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| 観客のために試合を演出する人々。かつてトッププレーヤーだった者達が、いまは裏方として試合を支えている。司会の女性もネットワークゲーム大会では常連だ |
本職の映像作家が会場内のスクリーンとストリーミング放送の生中継を手がける。「たくさんの人に観戦してもらいたいですね」と |