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オリジナリティと企画のひねりで魅せる
ロングテールなニーズもつかまえます
ステージには、あらかじめ「出演します」と告知せずに「飛び入り」した南こうせつがいる。隣は主役の技巧派ギタリスト、押尾コータローだ。彼らはひと回り以上も年が離れている。
南こうせつは観客といっしょに「シェイク・ザ・ミュージック!」と番組のタイトルを叫んだあと、突然ふざけて即興でベンチャーズを弾き始めた。すると押尾がたまたまその曲を知っている。彼はおもしろがり、こうせつにあわせてギターを奏でる。
テレビ用、ネット用に公式収録しているライブ・イベントのさなかに、アドリブでジャムセッションが始まった。ステージは途中からいきなりのベンチャーズである。しかもさわりだけのイタズラのはずが、いつのまにか2人はハマり延々と演奏が続く。
「かぐや姫」で1970年以降のフォークブームを作った56才のベテランシンガーと、スイスのモントルージャズフェスティバルに毎年出演している37才のギタリスト。そしてベンチャーズ。バラバラな世代とジャンルが、音を媒介にシェイク(かきまぜる)した瞬間だった。

▲イベントの模様は写真とともに速報レポートとしても紹介される
USENが運営する無料VOD配信サービス「GyaO」の特徴のひとつは、オリジナリティである。「SHAKE THE MUSIC LIVE」に限らず、ネット配信用に新しく自前で作ったコンテンツが目立つ。
たとえばウルトラ怪獣誕生の秘話をGyaOが独占放送する「怪獣のあけぼの」もそのひとつだ。日本特撮の黎明期、円谷英二のもとで数々の怪獣を生み出した画家・高山良策氏の人生を追う作品である。
番組では高山氏のご家族の協力で映像スケッチなどの貴重な資料を発掘し、当時を知る人物のインタビューをもとに高山製の怪獣を再検証している。
この作品は2005年10月に配信開始した全12話の構成だ。原稿執筆時点では第5話が公開されているが、過去3回ともGyaOの「ドキュメンタリー」チャンネル(6ch)における視聴ランキングで、ダントツの1位を続けている。
GyaOでしか観られない出し物がそこにある。なおかつ内容は低予算番組にありがちな、「オリジナル」とは名ばかりのショボイものじゃない。おまけにテレビの民放と同じ広告収入モデルで切り盛りしているから、ユーザは無料でコンテンツを観られる。
おもしろくてタダだから観る人が増える。GyaO好調の理由はきわめてシンプルである。
2005年4月25日にスタートしたGyaOは、同年11月14日に視聴登録者数が400万件を突破した。約半年で400万だ。通信の世界では、2001年に立ち上げたYahoo! BBにたった3日で100万人の申込が殺到して以来のインパクトだろう。
もちろん400万件は「登録した人」の数であり、問題は実際に視聴しているユーザが何人いるかだ。ちなみにネットレイティングスの調べでは、2005年9月度時点で月間のアクティブユーザは200万人以上に達している。
GyaOの登録者数が急増するのは、もうひとつの理由がある。当たり前の話だが、視聴者はまだコンテンツの中身を観ていない状態でユーザ登録する。そんな「未体験者」の数がとんでもないペースで増えているわけだ。
この事実は何を物語っているのか? GyaOのコンテンツには「観てみようかな?」と思わせる何かがあるということだ。
ふつうコンシューマがユーザ登録するときには、まずサービスのお品書き(コンテンツ一覧)をあらかじめチェックする。一般に登録情報の入力はめんどうなものだ。ここで「うわぁ、めんどくさいなあ」と思われたらおしまい。雑誌でいえば、コンビニの店頭で手にとってもらえるかどうかの第一関門だ。
「こいつには手間をかけるだけの意味があるのか?」。コンテンツの中身をまだ観ていないユーザの最大の関心事はここだ。
とすればGyaOの登録者数が400万件を突破したのは、観ていない人の「観たいキモチ」をくすぐるしかけがコンテンツにあるからだ。まずオリジナリティがあるだけでなく、企画のひねり方がうまいこと。そしてもうひとつは、ロングテールなニーズをつかまえている点である。
前者についてはGyaO全体を総論的に語る回でふれるが、後者の例ではさっきあげた「怪獣のあけぼの」は典型的だ。この作品は怪獣に思い入れや興味がない人には、ナンの意味もない。だけどおそらく「怪獣のあけぼの」を観るためだけにユーザ登録した人もけっこういるだろう。
GyaOはこのテのマニアックな作品を一定数以上かかえている。1本1本はニッチなテーマだから、コンテンツA単体を観るユーザの数は多くないかもしれない。だがこういう凝った掘り下げ方をした作品がコンテンツB、C、Dと増えていけば、各ジャンルの熱狂的な固定客をトータルするとけっこうな数になる。
一方、前者の「ひねり方」とは、企画の切り口や構成の仕方、あるいはキラリと光るコピーライティングのセンスで、思わず手に取らせてしまうタイトルの付け方みたいなものだ。
たとえば「SHAKE THE MUSIC LIVE」は、単に複数のアーティストを集めるだけじゃない。確信犯的に違うジャンルや年齢のミュージシャンを組み合わせる。そしてカクテルをシェイクするように、いろんな才能をかきまぜて熟成させる。
さて、いったいそこで何が起きるのか? お祭りを待つときのわくわく感、イベント性だけでなく、南こうせつと押尾コータローが演じたジャムセッションみたいなハプニング性もある。
同じく第1回イベントでは、「最後の雨」のヒットで知られる中西保志が出た。彼は、「前の人があんな(テンション)だったから、1人じゃやりにくいなあ」とかなんとかいいながらステージに上がる。
そして2曲目になると韓国のミュージシャン・Zeroが登場し、中西とデュエットするのだ。「1人じゃやりにくい」なるセリフは、このからくりにひっかけている。
2人がデュエットした曲は、大ヒットした韓国ドラマ「冬のソナタ」の「初めから今まで」だ。この時点で世代やジャンルだけでなく、国境もシェイクしている。
そのあと中西が引っ込み、Zeroのステージになった。彼が歌った最後の曲は、中西の1992年の大ヒットシングル「最後の雨」である。ここでもコンセプト通り、出演者同士がクロスオーバーしている。
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