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ゆっくり時間をかけて失恋する物語 |
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落下する夕方
配信:シネリエ (c) 1998 松竹/テレビマンユニオン/衛星劇場
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さて、正直であることはおおむね美しいものですが、時として周りの人間を傷つけるのも事実です。『落下する夕方』(合津直枝監督、1998年日本映画)の坪田リカ(原田知世)は、結婚こそしていないものの4年も一緒に暮らしている恋人の薮内健吾(渡部篤郎)に今なお胸をときめかせる幸福を噛みしめ、穏やかな日常に満足していました。ところが、別れは突然やって来ます。
リカが嫌になったわけじゃなく、もっと好きな女ができたから一緒にはいられないと告げ、潔く出て行く健吾。狡い男ならリカと暮らしながら、こっそりと新しい恋に移行する道を選ぶのでしょうが、そんな芸当はできないのですね。しかし、新しい恋のお相手の華子(菅野美穂)は手強く、哀しいくらい馬鹿正直な健吾は大苦戦を強いられます。
一方、かつて自分を愛していた男が、別の女に恋をして苦しんでいる姿に胸を痛めるリカ。別れ話に傷つきドロドロとした嫉妬心を抱えながら、健吾には不幸になってほしくない。「じゃあ、帰ってくればいいのに」とも言い出せず、でも、愛する男にはいつも幸せでいてほしいのです。たとえお人好しと呆れられても、そういう風にしか愛せないのがリカなんです。
確かにお人好しです。健吾の幸せを願うだけでなく、いきなり転がり込んできた華子を追い出すことなくルームメイトとして受け入れてしまうのですから。おまけに華子会いたさに、出て行ったばかりの健吾まで遊びに来るようになり、にわかに奇妙な三角関係が出来上がります。自由奔放で謎だらけの華子にリカも健吾もおおいに心をかき乱されるのですが。今よりほぼ10年分若い3人の俳優たちが演じるリカ、健吾、華子は、誰もが自分に正直にしか生きられない本質的な誠実さを持っています。その誠実さゆえに、時として、お互いを、また自分自身をも傷つけてしまうのです。
原作者の江國香織によれば、これはゆっくり時間をかけて失恋する物語。健吾が出て行った後も、心のどこかで2人の暮らしが終わってしまうはずがないと思い続けるリカは、ひとりで住むには広過ぎるし、家賃も払い切れないマンションから引っ越そうとは考えません。引っ越してしまったら、別れたことになってしまうから。健吾がもう帰って来ないことは明白だけれど、そんなはずはないという思いを捨て切れないのです。
表面上は動揺を見せず規則正しく今までと変わりない暮らしを続けること。それが大失恋という窮地に立たされたリカの最大の抵抗なのでしょう。どうして愛する男と離れなければならないのか、理解できないし、納得できない。だから何一つ変える必要はないのだと。頭ではわかっているつもりでも人の心はそう簡単に割り切れるものではありません。気持ちをコントロールするなんて到底できませんよね。ゆえにリカの失恋物語は、非常識なようでとてもリアルなのです。誰かを失ってその不在の大きさを噛みしめ、孤独に満たされる時を過ごす。それは辛いけれど、避けては通れない大切なプロセスなのです。
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