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ベテラン刑事と容疑者の禁断の恋!? |
とは言うものの、いくら覚悟を決めて飛び込んでも、ダメになるときはダメになるもの。その場合は思いきって見切りをつけるしかありません。そこで、『シー・オブ・ラブ』(ハロルド・ベッカー監督 1989年アメリカ映画)のヒロイン、ヘレン(エレン・バーキン)です。離婚して子どもを育てながらシューズ・ショップに勤める彼女は、恋人募集広告を利用して新しい出会いを探します。ヘレンの選択基準は言葉のセンス。詩心のある男をチョイスして、アヴァンチュールを楽しむのです。
やがて出会うのがアル・パチーノ扮するフランク。ちょっとくたびれ気味でも十分魅力的な中年男に積極的に迫るヘレン。これだと思ったいい男は逃さない。それが鉄則ですから果敢に攻めます。その迫力に気圧されたように身を任せるしかないフランク。大胆でセクシーなヘレンにこれまた抗い難い魅力を感じているにもかかわらず、フランクが及び腰なのは、嘘をついているから。
実は、連続殺人事件を追うニューヨークのベテラン刑事であるフランク。被害者に共通するのは“シー・オブ・ラブ”のレコードがかかっている部屋で全裸で発見され、恋人募集広告を出している男性であること。そこに目をつけたフランクは、自分も広告を出し、食いついてきた女性と片っ端からデートをして容疑者を絞り込むという作戦に出たのです。そして、ヘレンこそがもっとも怪しい容疑者ということに。そんな相手と恋に落ちてのめり込むなどもってのほか。それなのに、百戦錬磨のフランクが、やすやすと落ちてしまうとは……。チームを組むシャーマン刑事(ジョン・グッドマン)に言われるまでもなく、かなりまずい状況なわけです。
けれど、それこそが恋。妻に去られたばかりで、人肌恋しさでいえばヘレンに負けていないフランクが彼女の素顔に迫ろうとするのには、真犯人を突き止めるという職業的使命と、恋した相手をもっと知りたいという気持ちも重なっているはず。ヘレンがもし本当に殺人犯であるならば、フランクはいつ殺されても不思議ではない状況であるし、もしヘレンが白なら、フランクは不実さを攻められても仕方がありません。
たとえ犯罪者の心理を読むことに長けてはいても、女心を理解するのは難しいもの。ほんの少し読み違えただけで大切な人を永遠に失うことになるかもしれません。せっかく勝ち得た信頼を裏切ることがいかに罪が重いか。それは犯してはいけないミスであり、運命のいたずらだと言い訳はできないのです。寂しいけれど、裏切られるのは辛い。相手の心にどのくらい踏み込んだらいいものかは悩みどころでしょう。どれだけ経験を積んでも、一旦恋に落ちればスマートに立ち回ることなんてできないのです。
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男女の心を繊細に描いた美しくも哀しいアジア映画 |
極めてアメリカ的な陽気なコメディ、危険なサスペンスときて、最後は、愛することの怖さを知っている年上の女性に恋する青年を主人公にしたアジア映画ならではの繊細さが光る名作『春の日は過ぎゆく』(ホ・ジノ監督 2001年韓国・日本・香港映画)です。
録音技師のサンウ(ユ・ジテ)はラジオ局のDJ兼プロデューサーのウンス(イ・ヨンエ)に、自然界の音を拾い集める仕事を依頼されます。風が揺らす竹林の音や河を流れる水の音に並んで耳を澄ませる取材を続けるうちに近づいて行く2人の心。ウンスは「ラーメン食べる?」とサンウを部屋に誘い、当然のように「泊まってく?」とサンウに畳み掛けます。
ウンスのリードで2人の恋は順調に進んで行くかのように見えます。「死んだら一緒のお墓に入ろう」なんて言われたら、もうそれは永遠の愛なんだとその気になるのも無理のないこと。けれど、「恋人を紹介しろって、父が」とサンウが口にしたことで、2人の関係に微妙なさざ波が立ち始めます。いえ、その前からウンスにはそろそろ潮時だなとの思いがあったのかもしれません。一度結婚に失敗している彼女にとって、2人だけの恋の時間を楽しむことと、そこから発展した結婚という将来設計は別物。そうであるなら「一緒にお墓に入ろう」なんて言ってはいけなかったのです。
でも、言わずにはいられなかった。心の底ではずっと愛し愛されたい。サンウの手を放したくないと思っているから。それなのに別れを切り出すウンス。一度手にした幸せを失うことの辛さを知っているからこそ、再び傷つくことに耐えられないのです。経験を積むことで人は賢くもなりますが、用心深くもなりますね。ストレートに愛を信じ求めることができるのは、向こう見ずな初心者の特権なのかもしれません。
女心の真意を計り兼ねて「なぜ愛が変わるんだ」と納得できないサンウに、「バスと女は去ったら追うもんじゃないよ」とやさしく諭す祖母。風の音を聴くことはできても、愛する人の心の声は聴こえてこない。そんなもどかしい失恋を経験したサンウは確実に大人になり、ウンスは今の段階ではまだ臆病な自分を抱えたままひとりで生きることを選ぶしかないのです。
この美しくも哀しい映画を撮ったのは、ペ・ヨンジュン主演の『四月の雪』でもお馴染みのホ・ジノ監督。ビターな恋愛と生きることの悲哀を描く名手です。
噂話や見掛けにごまかされることなく心の声に耳を傾けて、相手のことも自分自身も丸ごと受け止める勇気と寛容さを持つことができれば、人はもっと生きやすくなるのかもしれませんね。
■著者紹介
齊田安起子(さいたあきこ)
1963年生まれ。大学卒業後、スコットランドとその周辺をWalkman DD(カセットテープさ!)を道連れに船、鉄道、バス、徒歩で旅し、サッチャー時代のイギリスや、東西分断時代の西ドイツを覗き、フィンランドでは北極圏ちょっとだけ突破を果たす。働かなくっちゃと帰国後、10年強のOL生活を経て、カルチャーセンターの映画ライター講座をきっかけに、書く仕事を開始。DVD&ビデオVISION(日之出出版)、映画情報サイトCINEMA COMIN'SOONなどにせっせと書いてます。ちなみに現在はiPodユーザです、念のため。
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