
 |
|

|
 |
エロティックでミステリアスな喜劇 |
滑稽でありながら孤独が身にしみるウディ・アレン的インテリ層のニューヨーク夫婦物語に続いては、何不自由なく暮らす日本の夫婦の迷走ぶりを『卍(まんじ)』(井口昇監督 2006年日本映画)で見てみましょう。文豪・谷崎潤一郎が大阪言葉で綴った人妻の告白形式の同名小説が原作です。
暇を持て余した裕福な人妻・園子(秋桜子)が、美術学校で年下の美女・光子(不二子)と出会ったことがきっかけで、抜き差しならない羽目に陥る官能的な物語は、園子と光子の関係が深くなるにつれて、光子にくっついて離れない得体の知れない男・綿貫(荒川良々)の登場もあり、誰が仕掛けてどこまでが嘘なのかますます混迷を深めて行きます。
ほんのいたずら心から始まった同性愛の関係にのめり込む女たちの嘘と言い訳三昧に騙されたままだった園子の夫・謙二(野村宏伸)も、光子の妖しい美しさに魅せられて、結局は夫婦揃って愛と欲望の三角関係に溺れるのです。こう書くとドロドロしたメロドラマのようですが、実はかなり笑えます。彼らが最終的に向かう先を悲劇とみなすこともできますが、その結末にすら滑稽さが拭えません。天真爛漫な有閑マダムとその夫、そして魅惑の誘惑者が三つ巴で騙し騙され堕ちて行くエロティックでミステリアスな喜劇なのです。
 |
詐欺師が大物ギャングに復讐を果たすコメディ!? |
最後は、騙しのプロたちが大勝負に出る『スティング』(ジョージ・ロイ・ヒル監督 1973年アメリカ映画、配信:Yahoo!映画)で締め括りましょう。舞台は不況に喘ぐ1930年代のシカゴ。仲間を殺された詐欺師フッカー(ロバート・レッドフォード)が、賭博師のゴンドルフ(ポール・ニューマン)と組んで仇であるニューヨークの大物ギャングのロネガン(ロバート・ショウ)に復讐を果たすコメディです。
復讐と言っても、いわゆるギャングものとは違い血みどろの抗争にはならないところがまず楽しいところ。レッドフォード演じるフッカーは詐欺師とはいってもストリートでスリを働く程度のほんの小者ですから、大物を倒すにはその道のベテランの助けが必要です。そこでゴンドルフの才覚と人望を借りて大掛かりな罠を仕掛けますが、彼らはあくまで殺しではなく騙しのプロ。ゆえにビッグな相手から大金を巻き上げてぎゃふんと言わせることが最良の復讐となるのです。
ロネガンを引っかけて嵌めるための場外馬券売場の準備はまさに映画制作のセットそのもので、裏方やエキストラ的役割を果たす人員も配置され、これぞ芝居を打つという表現にぴったり。ここにフッカーを捕まえようとする刑事も巻き込むという手の込みようで、重層的な大仕掛けには観ている方もまんまと騙されるのですが、それがまた心地いいのです。
作品賞、監督賞を含むアカデミー賞7部門制覇のこの傑作コメディは、脚本の素晴らしさ、ポール・ニューマン、ロバート・ショウといった名優の巧さはもちろんですが、カモにされるのがギャングの大物だという設定が面白さの決め手ではないでしょうか。普段偉そうにしているいけ好かない奴が翻弄されて笑い者になる。これほど痛快なことってありませんよね。勧善懲悪とはちょっと違いますが、胸のすく展開であることに違いありません。
人の心も世の中もままならないのが厳しい現実ですが、信頼できる仲間とユーモアを解する知恵があれば、笑って溜飲を下げることもできるのです。
■著者紹介
齊田安起子(さいたあきこ)
1963年生まれ。大学卒業後、スコットランドとその周辺をWalkman DD(カセットテープさ!)を道連れに船、鉄道、バス、徒歩で旅し、サッチャー時代のイギリスや、東西分断時代の西ドイツを覗き、フィンランドでは北極圏ちょっとだけ突破を果たす。働かなくっちゃと帰国後、10年強のOL生活を経て、カルチャーセンターの映画ライター講座をきっかけに、書く仕事を開始。DVD&ビデオVISION(日之出出版)、映画情報サイトCINEMA COMIN'SOONなどにせっせと書いてます。ちなみに現在はiPodユーザです、念のため。
●リレーエッセイ 一覧へ●
●ご意見・ご感想をお寄せ下さい●
|



|
 |















|