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競争社会の罠にはまった現代人を鋭くかつユーモラスに描く |
ところで、物事を「勝ち」と「負け」という2つの結果に分類するのは確かにわかりやすい。ですが、そんなに単純に割り切れるものでしょうか。たとえば、勝ち負けを競うゲームには一定のルールがあり、限られた条件の中で優劣を競い勝敗が決まります。野球やサッカーなどのスポーツがそうですね。また、美少女コンテストや映画祭のコンペティションにも審査のためのルールがあります。ではそこでの勝敗が人生のすべてを決してしまうかといえば、そんなことはなく、勝負の行方は相対的であり、優劣の評価は時代の価値観とともに常に流動的なもの。にもかかわらず、勝ち負けのみに固執してしまえば、近視眼的にしか物事を見ることができません。けれどそれは競争することそのものに非があるのではなく、勝敗の結果にばかり捕らわれてしまうことにこそ問題があると思うのです。リチャードのように「勝ち組」になれなければ「負け犬」なんだと短絡的に決めつけてしまっては、すぐに行き詰まってしまうでしょう。これでは、自分自身に惨めな「負け犬」のレッテルを貼らなければならなくなり、屈辱と不幸のどん底の気分を味わう破目になります。
では、一番幸せそうなのは誰か。それは最年少のオリーヴです。彼女が挑戦する美少女コンテストは競争ですから、審査員という他人にどう見られるかに固執してしまいそうですが、天晴れなオリーヴは、どう見られるかより、どう見せるか、自分はステージ上でどう踊るのかということに全力投球します。最優秀主演女優賞に輝いたアビゲイル・ブレスリン演じる一途で素直なオリーヴの堂々たるはじけっぷりは、「負け犬」モードで意気消沈していたフーヴァー一家に喝を入れ、不協和音でぎくしゃくして崩壊寸前だった家族を甦らせるのです。
自ら育てた融通の利かない競争社会の罠にはまって泣くに泣けない現代を生きる私たち。そんな皮肉な状況を鋭くかつユーモラスに描いた本作。新人マイケル・アーントが書き上げた脚本を、甘過ぎず辛過ぎず、ちょうどいい匙加減の映画に仕上げたのは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのミュージック・ビデオやGAPのCMなどで高い評価を得てきた映像ディレクター夫婦ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス。初の長編監督作品ですが、最優秀監督賞受賞も納得の見事な手腕を発揮しています。勝っても負けても引き分けても、人生は続いてゆく。だったら、したたかに生き延びようじゃないか。悔し涙も挫折も絶望も味わったフーヴァー一家と一緒におんぼろミニバスを押しながら旅をしてみたくなる。心から観てよかったと充実感を味わえる愛おしい映画なのでした。
◆リトル・ミス・サンシャイン
2006年アメリカ映画
20世紀フォックス映画配給
2007年お正月、シネクイント他ロードショー
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■著者紹介
齊田安起子(さいたあきこ)
1963年生まれ。大学卒業後、スコットランドとその周辺をWalkman DD(カセットテープさ!)を道連れに船、鉄道、バス、徒歩で旅し、サッチャー時代のイギリスや、東西分断時代の西ドイツを覗き、フィンランドでは北極圏ちょっとだけ突破を果たす。働かなくっちゃと帰国後、10年強のOL生活を経て、カルチャーセンターの映画ライター講座をきっかけに、書く仕事を開始。DVD&ビデオVISION(日之出出版)、映画情報サイトCINEMA COMIN'SOONなどにせっせと書いてます。ちなみに現在はiPodユーザです、念のため。
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