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ネットから消えた友人について
2005年4月8日
私と同い年の彼は、ネットでは有名な迷惑野郎だった。具体的にどこでどれくらい暴れまわっていたのか、詳細までは知らない。なにしろ文字だけのパソコン通信の時代から、彼はネットで暴れていたのだ。古くからの知り合いは皆、よそで暴れていてくれた方がこっちは楽、と思っていたに違いない。いや、他人のことは別にして、少なくとも私はそう思い、本人にもはっきりそう言っていた。
彼は躁鬱病だった。発病は学生時代だったと後で聞いたが、決定的に悪化したのは彼が就職した時期だったろうと、私は勝手に思っている。彼が新卒で配属された部署は、ある事情から、非常に精神的苦痛を強いられる環境にあったからだ。私は社員ではなかったが、隣の部署に出入りしていた。後に彼がこちらの部署に異動して来て、対面でも彼に議論を吹っかけられて話し込むことが増えた。
ネット上や対面での彼の言動に悩まされつつ、それでも彼のことを憎からず思っていた友人たちは少なくない。それはことさらに露悪的であろうとする言動の中に透けて見える馬鹿正直さや人懐っこさ、そして膨大な引用と独善的な思い込みの垂れ流しの中に垣間見える才能のきらめきの故だったろう。それは砂漠の中で一粒の砂金が光る程度のものだったかも知れない。だが、彼はその砂金の貴重さを知っており、それを自ら取り出せないことのもどかしさにイラ立っていた。だから脳内思考をブチまけて、誰かこの砂金を拾い上げてくれと言い続けるしかなかったのだ。
去年の春、数箇月ぶりに聞いた彼の消息は、彼の葬儀の日程だった。どうせまた躁の時期になれば迷惑なやつが帰って来ると思っていたのに、彼は突然、自ら選んで逝ってしまった。普通はお身内しか見ない最後の顔を、あえて見せてもらった。そうでもしないと納得できなかった。いや今ですら、ネットのどこかで彼がまた暴れ出しそうな気がしてならない。あれからもう、1年が経つというのに。
■著者略歴
小笠原 陽介 (おがさわら ようすけ)
理系のココロを文系のコトバで語るフリーライター兼コラムニスト、時々ジャーナリスト。ITによる人間と社会の変容に問題関心を持ち、独特の視点から発言を続ける。
主な著書:『PC-98パワーアップ道場』1998,ソフトバンク
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