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 強力なキックというリアリティ
 

 ということで、前回制作した『カンフーマスター』に、キックを導入してみよう。
 キックは、パンチよりも強力という「感じ」を手渡したい、と考えて仕様を決める。

 キックは、パンチよりも強力で、敵をふっとばす。ふっとんだ敵は、他の敵にぶつかって、いっしょにふっとんでいく。
 キーーーックってやったとき、連鎖で敵を倒す気持ちよさを出したい。また、一度に敵を倒すと、得点が倍々になることによって、強力さを強調する。

スペースまたは↓でパンチ。↑でキック。
パンチで、敵を倒す。
キックは、敵をふっとばして、連鎖で敵を倒すことが可能。
一度に敵をたくさん倒すと、得点が×2・×3・×4になる。


 ただ、こうすると、あきらかにパンチよりキックのほうが有利になってしまう。
 そうなると、だれもパンチを使わなくなってしまう。

 そこで、キックの効果に、弱点をつけることにする。
 ジレンマを生み出すためだ。
 2種類の攻撃に、それぞれ長所と短所をつけることによって、「どちらの攻撃を行うべきか」という選択のジレンマを持たせることができる。

 ここで、ゲーム制作で気をつけるべきポイントその1。
「ゲーム全体の表現レベルをそろえろ」


 つまり、「カンフーマスター」というゲームは、シンプルで簡単に遊べる表現レベルなのに、急に、攻撃の部分だけ、複雑だったり、微細なものになっていると、ゲーム全体の表現レベルのバランスが崩れてしまう。
 プレイヤーは、ぱっと見て、どのようなゲームなのか、全体像を想像する。シンプルなドット絵で、シンプルな操作性のゲームであれば、攻撃の長所・短所もシンプルであると想像してプレイする。その予想を裏切ると、わかりにくいゲーム、遊び心地の悪いゲームになってしまう。

 たとえば、「一定回数以上キックして、しばらくすると下半身の筋肉疲労が起こり、歩き方がぎくしゃくしてくる」なんてのは、ゲーム全体のシンプルさと比べると、バランスが悪い。
 ゲーム全体の表現レベルにそろえて、キックの弱点設定をしなければならない。

 「キックの弱点」を試行錯誤してみる
 

 今回は、キックの弱点をいくつか考えて、試験的に導入し、比べてみよう。

 一番簡単に組み込めるのは、キックを使うと、ちょっとだけ自分の体力ゲージが減少するという方法だろうか。
 体力はゲージで表現されているので「歩くスピードの変化」より明確で、わかりやすい。
 「キックするには体力が必要なのだ」という感じも、納得ができる。が、キックして自分が死んでしまうなんてことが起こる。さすがに自分が死んでまでキックしないだろう、という違和感が気持ち良くない。

 ここで、ゲーム制作で気をつけるべきポイント2。
 「不当に損をしたとプレイヤーに感じさせてはいけない」


 たとえば、シューティングゲームで自機のアタリ判定について考えてみよう。「弾が自機スレスレに当たった!」時に、どうなるのが面白いゲームだろうか? 
 スレスレでも当たったのだから、厳密に自機が爆発すべきだろうか。だが、プレイヤーは、スレスレに当たった瞬間を見逃すかもしれない。まばたきをしている瞬間かもしれない。自機の絵のフチが暗い色で見えにくいかもしれない。
 ギリギリに当たった! でも、プレイヤーは見逃していた。そんな時に、自機が爆発し、一機失うと、プレイヤーは不満を持つ。「ギリギリで避けたのに、爆発した!」と。
だから、シューティングゲームで自機のアタリ判定は、自機の絵よりも小さめにすることが多いのだ。
 スレスレで当たった時、自機が爆発しなくても、プレイヤーは不満を持たない。「助かった!」って思うのは、嬉しいから。「ぎりぎりで避けた!」と快感に思うことだってある。ゲームの基本は、プレイヤーを楽しませることにあるのだから、不当に損をしたと思われるより、こちらのほうがいい。

 というわけで「キックで体力が減る」に関して「ただキックしただけでゲームオーバーになる」のは、不当に損をしたと感じさせてしまう。「キックしても死にはしない」対策を考えるか、別の方法で弱点をつけるか、を考えることにする。

 「死にはしない」対策で考えると「体力が少なくなるとキックができなくなる」という方法がある。

■体力が少なくなるとキックができなくなるバージョン

 キックの制限を体力減少ではなく、単純にキックできる回数を設けるという方法もある。キックは1ゲーム5回まで、という回数制だ。回数制にすれば、画面左上にキックの回数を示すマークをつけることによってキックが使用できる限界を明示しやすい。

■キックに回数制限があるバージョン(回数回復なし)

 回数制限にすれば、一定得点を取るか、何かアイテムを取ることによって、キック回数を回復するという「ごほうび」を組み込むことができる。
 ひとまず、3000点ごとにキックが1回分回復するようにしたのが下のゲームだ。

■キックに回数制限があるバージョン(3000点ごとに1回分回復)

 もうひとつ別な弱点を考えてみよう。
 「強力な攻撃(キック)が発動するまで、ちょっとだけ時間がかかる」という方法だ。
 パンチの場合は、キーを押して、次の瞬間、パンチの絵になる(キーを押した1/30秒後にはパンチしている状態になる)。
 キックのアニメーションを「いったん力をためて、キックする」というようにして、「いったん力をためて」の状態を3/30秒表示して、キック状態に移るようにする。
 そうすると、キックは強力だけど、キーを押してもすぐにキック状態になるわけではなく、無防備な瞬間が生まれてしまうという短所が生まれる。

■キック操作に「ため」があるバージョン

 これを発展させて、「↑キーをしばらく押していると、力を溜めて、強力な炎キックで攻撃する」にしてみよう。

■「炎キック」を実装したバージョン。炎が溜まる前に↑キーを離すとノーマルキックに

 まだ、他にもいろいろなキックの弱点のバリエーションを考えることが可能だろう。
 ゲームのおもしろさとしてのジレンマの設定と、ゲーム全体の表現レベルと、手渡したい感じ、それらすべての緊密な関連性を考えながら、設計していかなければならない。
 そのようなゲームデザインのバランスから、ゲームの「リアル」は生まれてくる。

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