人工知能で地球規模の食料問題を救う…テクノロジーが拓く未来の農業 | RBB TODAY
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人工知能で地球規模の食料問題を救う…テクノロジーが拓く未来の農業

IT・デジタル その他
(C) フロスト&サリバン
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◆世界の食料問題をAIで解決

 世界人口は将来的に急激な増加が見込まれており、現在の73億人から、2025年までに82億人に増加し、2050年までには97億人に到達すると予測されている。その一方で、都市化や高齢化に伴い農業従事者数は減少傾向にあり、将来必要とされる食物生産量は、現在よりも70%増加することが予測されている。

 また、農業は世界的に最も規模が大きくかつ重要な産業の1つである一方で、IT(情報技術)の活用は他の産業と比べて遅れをとっており、非効率的な生産が行われている産業となっている。例えば、米国で豆の缶詰を購入する場合、店頭での販売価格の約70%が、輸入コストなどを含む物流コストとなっている。このため、国内やより近い場所で生産された食品と比べると、輸送にかかるエネルギーやそれに伴う環境への負荷、本来は不必要な物流コストなどが存在しているのである。この様な問題の解決策となるのが、ITソリューションの活用である。中でもAIの農業での活用は、食糧問題への解決策として大きな革新をもたらすことが可能になる。

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1) ムダな肥料・薬剤を大幅に削減:精密農業でAIを導入

 農業におけるAI活用の有望な分野として、まず精密農業が挙げられる。精密農業とは、センサーなどを活用してあらゆる農業情報をデータ化し、収集されたデータに基づいて農作物の発育状況を観測し、発育状況の変化に対する必要な措置を行うことで耕作の効率性を最適化するものである。精密農業はセンサーを用いたデータ収集が基盤となり、ロボティクスや衛星通信、AIを組み合わせて実行される。地上の設備やドローンを通じて継続的に収集したサンプルデータに基づいて、温度や気候、硝酸塩含有量、土壌の質、作物全体の状況を把握・測定することが出来る。

 現状の農業では、大量の肥料や水、殺虫剤が撒かれており、これらのおよそ90%が本来は不必要なものとなっている。収集されたデータを通じてAIが導き出す分析によって、特定の農地で必要となる水や肥料、殺虫剤の正確な量を特定出来るようになる。これによって、肥料や薬剤を適切な量のみの散布で済むようになり、無駄なコストを削減して最も効率の良い耕作が可能となる。

2) 農業用ドローン:世界中で応用出来る最適な耕作法をAIで編み出す

 コンピュータービジョン(コンピュータによる画像認識・画像処理)の進化に伴い、農業用ドローンはもはや航空カメラの搭載のみに留まらず、自動で様々な作業を実行できるプラットフォームとなっている。種蒔きや雑草の検出、農作物の発育状態の監視や分析などの多くの作業が、ドローンを用いることで既に可能となった。

 AIシステムを用いることで、特定の農地に関する情報や、一般に公開されるより広範囲な農地の情報を分析し、生産・収穫について最適な方策を導き出すことが可能となる。ひとたびAIが最適な耕作方式を学習すれば、これを世界中のあらゆる農地でも適用することが可能となるだろう。さらに、AIがデータの学習を独自に行うことで、最適化された耕作方式の継続的な改良がなされる点は、重要である。

 現時点ではドローンの農業での活用は限定的であるが、将来ドローンの活用が様々な産業で拡大すれば、農業での活用拡大も進むことが期待できるだろう。

3) 生産性の向上や価格の引き下げ:垂直農法でのAI活用

 室内農業の一種である垂直農法は、農作物を栽培できる土地や水などの資源不足や都市化、人口増加などの問題に対するソリューションとして、高層建築物などの空いている土地を有効に活用し、垂直的に農作物の栽培を行う手法である。多くの場合、都心で人工照明や温度調節、水・気耕栽培を用いて行われる。

 東京の高層ビルなどの場所で作物を栽培するには、土や室内の温度などのあらゆるデータを非常に細かく測定する必要がある。AIを垂直農法で用いることで、温度の測定や管理などの手間がかかる作業を全て自動での管理が可能となる。ビッグデータ・アズ・ア・サービスや自動化ソリューションなどを提供する様々な企業が、農業用途でのマシンラーニング技術(コンピュータが学習し、予測を立てたりパターンを認識することを可能にする技術)を提供している。自動化を実現する技術の一つであるマシンビジョン(人の目の代わりに画像を認識し、位置決めや種別、計測、検査を行うシステム)を活用することで、最適な収穫時期を特定することが可能となり、完全自動化された農地は既に実現している。今後さらに多くのデータが収集・分析されることで、生産性がさらに向上し、作物の原価や販売価格を引き下げることも可能になるほか、環境への負担も軽減することができる。

◆AIを農業に用いる-ワインはOKでジャガイモが難しい理由とは

 農業におけるAIの活用は、国内食糧自給率が極めて低い国において、重要である。また、国内のより身近な場所で食物を栽培することで、食に対する安全の高まりや、食糧の確保、エネルギー効率や環境への配慮といった面で、AIソリューションが農業にもたらす利点は非常に大きいと言える。

 この様な大きな可能性が期待される一方で、AIの農業での導入には、クリアすべき課題も同時に存在する。1つは、コストの問題である。AIは既に一部の農業ビジネスで導入されているが、高級品の分野に留まっている。例えば、欧州や米国の一部のワイン醸造所では、原料となる果物の栽培にAIを導入している。ワインの味わいは土壌の性質によってに大きく左右されるため、ここでは最良のワインを製造するために、土壌の温度や湿度などを最適に保つ目的で用いられている。

 しかし、これはワインの様な単価の高い高級品であるために可能であり、ジャガイモの様な単価が安いモノへの活用は難しいのが現状である。今後多くの企業がAIソリューションを展開し、企業間での競争が行われることでより安価になれば、今後5~10年間で幅広い導入が期待できるだろう。

 くわえて、農業や関連ビジネスの従事者間でのITスキルの不足も課題である。IT導入を拡大するためには、サービスやシステムをより使いやすくカスタマイズすることや、専門サービスの導入が必要となる。

◆企業の投資拡大で、日本でもAI活用が期待

 今後農業でAIの活用が進めば、農業に関わる全てのステークホルダーが恩恵を受けることが出来る。農家は農作業やその他の工程の効率化が可能となり、政府は農作物の国内生産量を増加でき、消費者は国内生産の安全な食物を享受できるようになる。その一方で、肥料や農薬を提供する化学関連企業は、将来的に影響を受けることになるだろう。

 フロスト&サリバンの推計によると、AIに包含されるマシンラーニング(機械学習)の世界市場規模は、2015年の3億米ドルから、2020年までには60億米ドルへと大きく成長する見通しとなっている。また、AI開発を行うスタートアップ企業に向けた投資も過去数年間で急激に増加し、2010年時点では世界全体で4,500万米ドルであったが、2015年には3億1,000万米ドルへと大きく成長しており、AIの開発や活用の今後の拡大が期待される。

 農業でのITの活用は米国がリードしているが、日本は歴史的に見ても海外と比べるとより保守的と見受けられる。しかし、高齢化に伴う農家人口の減少や、中国からの食品汚染問題に伴う食の安全の高まりなどによって、日本でも農業におけるAI活用への関心は高まりつつある。日本では富士通が農業ITの分野でリードしており、今後より多くの企業がこの市場に参入して行くことが期待されるだろう。

 精密農業や農業用ドローン、垂直農業といった未来の農業における大きなトレンドは、データ収集、管理、自動化において全てが連携したアプローチが必要となる。企業は、資源や耕作を最適化し、データ集約型の農業の実現に向けて、AIシステムの開発に向けた投資を行って行くことが求められる。

 AIはこれまでにない最も革新的なテクノロジーであり、今後長期間で大きな変革をもたらす技術である。今後5~10年間で多くの産業での導入拡大が進むと期待されており、多くの産業のモデルを変革すると同時に、これまでにない新しいビジネスモデルを創出していくだろう。

●プロフィール●
マーク・アインシュタイン
フロスト&サリバン ジャパンICTリサーチ部門ディレクター
通信・デジタルメディア業界において10年以上の経験を有し、マーケットや経営コンサルティング、経営分析における専門知識を持つ。主な専門領域は、スマートフォンおよびタブレット端末の市場動向、モバイルコンテンツ分析などが含まれる。
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