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外国人労働者と働くためのコミュニケーション

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今後、日本の中小企業も直面する外国人労働者問題。日頃から1対1の人間関係を構築し、「手伝ってもらう」という意識を持つことができれば、不測の事態も乗り切りやすくなるはず
  • 今後、日本の中小企業も直面する外国人労働者問題。日頃から1対1の人間関係を構築し、「手伝ってもらう」という意識を持つことができれば、不測の事態も乗り切りやすくなるはず
  • 井上雅夫(株式会社オリーブプロジェクトJAPAN 代表取締役/ワイン醸造家)
  • 『ワインづくりの心得を生かす 部下を酸化させない育て方』(井上雅夫/実務教育出版)
 農業分野でも外国人労働者を受け入れることが検討されていますが、実際に受け入れる農家や企業の方はどのような心がけをしようと考えているのでしょうか。

 私は過去、カリフォルニアで15年ほどワイナリーのマネジメントをしていました。当時の経験から、他国の人に働いてもらうために重要なのはやはり、労使間での対面によるコミュニケーションだと考えています。

■団体としてではなく、個人として向き合う

 マネジメントしていたワイナリーは、日頃は15名ほどで運営していましたが、ブドウの収穫の時期などの繁忙期は、メキシコ系移民の方々の力を借りていました。彼らは独自のネットワークを持っていて、数人のトップがネットワークを抑え、人々をとりまとめていました。派遣会社のような窓口を彼らが担っていたのです。

 ただ仕事をしてもらうためなら、それらのトップなる人だけに声をかけ、賃金と仕事内容の交渉を行えばいいでしょう。あとは彼らが適当に人を割り振り、派遣し、仕事をさせてくれるのです。実際に働いてくれる人たちも私も、お互いにどんな顔のどんな人が働いているかも知らないままで。しかし、それではみんなに気持ちよく働いてもらうことはできません。

 私はできるだけ畑へ行って、彼ら一人ひとりと会話をするようにしました。移民の中には英語が話せない人もいましたので、私は片言のスペイン語で一人ひとりにあいさつをし、一人ひとりコミュニケーションをとるようにしました。

 この取り組みは、非常時に役に立つことになりました。ブドウの収穫を急遽早めたいといった無理なお願いをしたとき、困っている私の顔が思い浮かんだのでしょう、みんな一生懸命やってくれたのです。誰がどんな風に依頼をしているのかわからない状態では、こうはいかなかったと思います。

 農業は予想外のことが起きます。日頃から1対1の人間関係を構築し、ただ「使う」のではなく「手伝ってもらう」という意識を持つことができれば、不測の事態も乗り切りやすくなるはずです。

■離れゆく人はこころよく送り出す

 マネジメント職について7、8年経ったころ、醸造長が独立をしたいと言いだしました。アメリカでは高い技術力を持つ醸造家のステータスが高く、こういったことは珍しいことではありません。

 技術者と企業の目的が一致しないということは、どこへ行っても起こりうることです。優れた技術者は「良いもの」を作ることが至上命題になるのに対し、企業側は利益を追求しがちです。2つの目的のバランスが取れていることが理想的ですが、どちらかの目的を押しつけることはできません。

 引き止めたところで結果は変わらないだろうと、思い切って気持ちよく送りだしてあげることにしました。すると醸造長は、今までのワイン造りの秘伝(簡単なメモでしたが)を残していってくれました。その土地にあったワインをつくるための貴重なレシピです。技術者と関係を悪くせず、気持ちよく送り出すことで大切なノウハウを残してもらうことができました。

 これは後日談ですが、この過程は思わぬビギナーズラックを引き起こしました。このとき、ワイナリーを運営する道は2つです。新しい醸造家を連れてくるか、自ら醸造を手がけるか。私は後者を選びました。

 意外に思われるかもしれませんが、ワイン造りは工程さえ正しく実施すれば、一応ワインと呼ばれ、飲むに値するものはできてしまいます。ただし、美味しいワインを造ろうとすれば、これはもう果てしない研鑽が必要になります。

 しかし、醸造を手がけて2年目、ビギナーズラックか、国際ワインコンクールの赤ワイン部門でグランプリを獲得することができました。人生万事塞翁が馬。プロの醸造家を気持ちよく送り出したゆえに出た結果でした。


●プロフィール
井上雅夫(いのうえまさお)
株式会社オリーブプロジェクトJAPAN 代表取締役。現在は埼玉県秩父市のワイナリー「兎田ワイナリー」でワインを醸造している。大手旅行会社勤務、百貨店ニューヨーク支店長を経て、カルフォルニアワイナリーSycamore Creek Vineyards代表取締役社長に就任。その後、盛田甲州ワイナリーで取締役営業本部長を務めたのち、コンサルタントとして独立。現在は醸造を続けるかたわら、経歴を生かした「人材育成」のノウハウを企業や各種団体に提供している。ゴールデンゲート大学大学院修了(MBA)。職場心理コンサルタント、産業カウンセラー。
《井上雅夫》
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