【イノベーターズ】海外の老舗メディアのブランドを最適化する男……伏谷博之<後編> | RBB TODAY
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【イノベーターズ】海外の老舗メディアのブランドを最適化する男……伏谷博之<後編>

IT・デジタル その他
ふしたに・ひろゆき1966年島根県益田市生まれ。90年、タワーレコード心斎橋店にバイトとして入社。94年、新宿ルミネ店店長。96年、デジタルビジネス事業部部長。97年「@TOWER.JP」をローンチ。2001年マーケティング部を設立し、03年執行役員マーケティング担当に。04年、株式会社NMNL設立、代表取締役社長に。05年よりタワーレコード株式会社代表取締役社長に、同年ナップスター・ジャパン株式会社設立。07年、タワーレコードを退社し、09年より『タイムアウト東京』を設立
  • ふしたに・ひろゆき1966年島根県益田市生まれ。90年、タワーレコード心斎橋店にバイトとして入社。94年、新宿ルミネ店店長。96年、デジタルビジネス事業部部長。97年「@TOWER.JP」をローンチ。2001年マーケティング部を設立し、03年執行役員マーケティング担当に。04年、株式会社NMNL設立、代表取締役社長に。05年よりタワーレコード株式会社代表取締役社長に、同年ナップスター・ジャパン株式会社設立。07年、タワーレコードを退社し、09年より『タイムアウト東京』を設立
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  • 『タイムアウト』の創業は1968年。多くのメディアが創業者の手を離れて成り立つ中、二十歳でこの雑誌を創刊したトニー・エリオットさんは、最近まで経営に携わっていた。そんなところにブランドのレガシーは息づく、と伏谷さんは信じている
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通信やICTにまつわる"なにか"を生み出した『イノベーターズ』。彼らはどのように仕事に向き合い、いかにしてイノベーションにたどりついたのか。本人へのインタビューを通して、その"なにか"に迫ります。今回は「日本最古の音楽系ECサイトをつくった男」、伏谷博之さんの後編。

<前編はこちら>

「べつにいいんだけどさ」と伏谷さんは言う。ニヤニヤしながら、「この調子でいくと、あと4時間ぐらいはかかるかもしれないよ」。
仕事を始めてからいくつも成し得てきたイノベーションの最初のひとつ「@TOWER.JP」の完成まで、僕たちは、伏谷さんのトークを楽しみすぎたのである。気づけば、もはや傍らの美女の姿はない。伏谷さんの背後で働く『タイムアウト東京』の皆さんも、リーダーの仕事への復帰を心待ちにしているかもしれない。4時間かかっている場合ではないのだ!
「@TOWER.JP」のローンチ後、伏谷さんは、いろいろあってマーケティングを任されることになるのである。

「いろいろあって、ね(笑)。グッと端折ってきたね。うん、でもこの経験がすごく大きかったよ」

ある日、伏谷さんは副社長から連絡を受ける。誰あろう、「@TOWER.JP」の企画を出した際、伏谷さんを経営会議に出禁にした森脇明夫さんだった。

「"2時間ほど時間くれないか"って。会ってみたら"マーケティング本部をつくってくれないか"って言われたんです」

「いいっすよ」と調子よく答えた。

「マーケティングってことがよく分からなかったけど、詫びも入れてくれたし、一丁やるかと(笑)。調べてみると、EC立ち上げた時にやったことと似てるんだよね。ECはタワレコの音楽流通の行く末を考えた時に、こうした方がいいよね、って考えたもので、マーケティングはタワレコというブランドを新しい市場でどう活用するのかってことだから。それについては、外部で意外と知られてないことも実感していたので、とにかく知られなきゃいけないよね、と思った」

その後、タワーレコードのブランド力強化のために「NMNL」(=NO MUSIC , NO LIFE.)という会社をつくってマーケティング部門を分社化し、タワーレコードに戻って社長になったら今度はサブスクリプション音楽配信サービス「ナップスター・ジャパン」をスタートさせた。

要は、ここに至るまでの、伏谷さんにとってのイノベーションは、こういうことだったのだ。

「これからもタワーレコードをちゃんとするにはどうすればいいか」



そのことを集中して一生懸命考えたら、だいたいいつも答えはポンと目の前にあって、「今やらなくて、いつやるんだよ!」と当たり前のようにやってきただけ。それがたまたま日本最古だったり、時代を先取りしていたことになっていただけ、と伏谷さんは強調する。......どころか、「恥ずかしいからあんまり言わないで」と言って笑っている。

「だからむしろ『NMNL』が、僕にとっては大きかったかな。僕がいたころには実現できなかったけど、『NMNL』を介して社外のブランドが音楽を活用することで、より魅力的に見えるようにブラッシュアップできればな、と思ってたから。タワーレコードというブランドを軸にビジネスを再構築する、っていうことに気づいたから」

それが今の『タイムアウト東京』にもつながっている。

■「橋をかける」――「タワレコ」でのブランドへのリスペクトが「タイムアウト東京」を生んだ。

「大切なのは創業者の思い。タワーレコードにはラス(・ソロモン)さんというおじいちゃんがいた。ブランドの本質はそこにしかないんですよ。彼の話を聞いて、どんな思いでブランドをつくり、お客さんたちはなぜそのブランドが好きなのかを理解する。その本質を残しながら今の時代に合うには、将来に合わせていくには......ってことを考えてやってるだけ。タイムアウトを始めた時、"全然違うジャンルに行ったねえ"って言われたんだけど、僕の中ではまったく同じ。片や町のレコードショップとして始まり、世界を席巻して生きた化石みたいな状態、でも日本では現役という不思議な存在。片や、海外ではすごいブランド認知を受けつつ、雑誌という、それ自体が斜陽産業にあって、今後が危惧される存在。でもそれぞれ五十数年とか四十数年とか続いてきたブランドの看板があって、信頼して集まってるユーザーがいて、コンテンツがあるという点は共通していて......」



「インターネット時代でのメディアブランドの役割として......これもタワレコとタイムアウトで共通してると思うんだけど、それは"橋をかけること"。例えばAという音楽が好きな蛸壺があります。で、その横に別のBが好きな蛸壺があり、Cの蛸壺もある。でも蛸壺同士はつながってないの。引きの目線で見ると、Aの人はBを聴いても絶対好きなはずなのに、聴かないんだよね。むしろ海外A好きとつながってたりする。そのAとBの間に橋をかけるのがタワレコ。例えばアイドル好きの人が、タワレコにCDを買いに行きました。そのアイドルメンバーのひとりはラップしてます。タワレコではそのアイドルのCDの隣に、ラップしてるメンバーが好きな傾向のヒップホップのCDとかが置いてあるわけ。あるいはそのヒップホップのCDに参加してるサックスプレーヤーのCDがまた横に置いてあって、リコメンドしてある。それでどんどん試聴していく。そこでいいじゃんって思ったジャンルやアーティストにのめり込んでいく。そうやって音楽蟻地獄へガイドしていくのがタワレコ(笑)。するとそれまでタワレコに行くのが精いっぱいだったアイドル好きの子が、宇田川町の小さなヒップホップ専門店に行くことになるかもしれない。テレビの歌番組だけ見てた人を、よりマニアックなところにつなげる橋をかけることができる。『タイムアウト』もまったく同じなんだよね。今度は、音楽のジャンルだけじゃなくて、アートとか映画とか食とか街の歴史とか、さらにいろいろなカテゴリーへと橋をかけていくわけ。それがメディアブランドの役割だと思ってる」

で、小売りだけだと追いつけないからECへ。試聴機の隣に別のジャンルのCDを置く代わりに、ネット配信でさまざまなものをリコメンドし、雑誌を電子化、あるいは多言語化して異なるカルチャーにも橋をかけてきた。

「だから、僕がやってるのは"ブランドの持つポリシーやストーリーを、どうすれば今の時代に最適化できるか"っていうことぐらいかな。昔はそれを琵琶法師が町から町へと語り歩いてたんだよ。僕がやってるのも同じこと。今はそのやり方だとちょっと伝わりにくいからラップにして、ネットで配信しましょうかって......そんな感じだね(笑)」

インバウンドのムーブメントをいち早く察知。ECサイトにしろ、音楽配信サービスにしろ、とにかく伏谷さんの先見の明。とにかく早い。早すぎるのである。

「よく言われるんだけど、イヤなんだよね〜(笑)。エラそうな言い方すると、ゴッホが死後に評価されるたみたいなことでさ、ユニクロの柳井さんとかソフトバンクの孫(正義)さんとかって"早すぎましたね〜"なんて言われないじゃん(笑)。俺だっていろいろ始めるときには"今やらなくて、いつやるんだよ!"と思ってやってきたんだけどね」


文:武田篤典撮影:有坂政晴(STUH)

【イノベーターズ】「海外の老舗メディアのブランドを最適化する男」伏谷博之/後編

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