【インタビュー】ネットとコミュニティが事業戦略の要――笠岡放送 | RBB TODAY
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【インタビュー】ネットとコミュニティが事業戦略の要――笠岡放送

エンタープライズ 企業
笠岡放送(愛称「ゆめネット」)代表取締役社長 枝木恭平氏
  • 笠岡放送(愛称「ゆめネット」)代表取締役社長 枝木恭平氏
  • 笠岡放送社屋
  • サーバールーム
  • 番組配信を管理するコンソール
  • スタジオ
  • 地域に根差したデータ放送
 2013年、岡山の笠岡放送(ゆめネット)はケーブルテレビアワード スピード部門で中国地方のトップに輝いた。

 笠岡放送は、加入世帯数で2万6千ほどというローカルなコミュニティケーブル局。ローカル局といっても、RBB TODAYのスピードテストの計測数は周辺のケーブル局よりも多く、都市部をカバーするケーブル局の計測数に匹敵するほどだ。今回は受賞記念のインタビューを兼ねて代表取締役社長 枝木恭平氏に話を聞いた。

――中国地方はケーブル局が多く競争が激しい地域とも聞きますが、笠岡放送はどのような経緯で事業を始めたのでしょうか。

枝木氏:私はもともと地域の難視聴対策の組合の活動をしていました。平成8年から始まった岡山情報ハイウェイ構想の中で、防災放送と難視聴対策を合わせてケーブルテレビ局を作るというプランがあり、国の補助を得ながら、インターネット事業の免許も取れるという話から設立したのが笠岡放送です。岡山県の情報化政策が、早いタイミングで国の補助政策と結びついて事業化が成功したパターンではないかと思っています。

――笠岡放送の特徴は?

枝木氏:県や国の助けもあり、難視聴対策と地域のブロードバンド化にいち早く成功したケーブルテレビ局のひとつ、という点ではないでしょうか。おかげさまで、平成11年の開局から黒字経営を続けさせていただいています。サービスの特徴としては地域密着型を重視しています。地元のメディアとして、地域のイベントや学校の運動会などの番組作りも少ないスタッフでがんばっています。防災情報だけでなく、地域の行政情報やおくやみ情報などのデータ情報サービスにも力を入れています。実は、学校・病院・自治体の専用線を含めたネットワークも笠岡放送で回線を提供しています。FTTHや専用線を使って、病院のカルテなどを先生が自宅などで閲覧することもできます。笠岡放送の地域密着というのは、サービスはコンテンツに加えて地域のネットワークインフラと一体になっているのです。地域の回線を押さえているので、例えば料金の面でもNTTや大手ケーブル局とも競争力を維持できています。

――その回線はどこから調達しているのですか。

枝木氏:ネットワークは自前の回線を利用しています。先ほど述べたように、平成10年前後の難視聴対策と情報化政策の補助を受け、テレビ放送の視聴を地域に保証するという前提で、サービスエリアである当時の1市3町(笠岡市・里庄町・鴨方町・寄島町。現在は町村合併により笠岡市、浅口市、里庄町の2市1町)の設備や資産など集約し第3セクターとして事業化を行い、第一種通信事業者の免許を受けています。つまり、地域の放送サービスとブロードバンドサービスに責任を負う形で、自治体の通信回線を独占させてもらっています。NTTといえども、地方の隅々までFTTHを敷いたり、基地局などの整備に投資できないでしょう。固定電話はともかくインターネット接続やIP電話についてはこの地域にNTTの入り込む余地はないと思います。

――FTTHや専用線まで自社で所有しているというのは、今回のスピード部門で地方別トップとなったことに関係がありそうですね。

枝木氏:はい、影響はあるかもしれません。他にも、笠岡放送のアップリンクは1.5Gbpsの専用線でJPIXに直接につながっています。私が大学でコンピュータを専攻しており、インターネットには25年以上も親しんでいたので、事業を始めるとき、ケーブルテレビだけのビジネスモデルはあまり考えていませんでした。必ずインターネットの時代がくると思って通信事業を両輪で動かなければダメだと思っていました。開局当初から高齢者にケーブルテレビを見せるだけでなく、PCのセミナーを開いたりしていました。こういった取り組みが功を奏し、現在サービスエリアの85%がテレビ契約をしていますが、ネットの契約も57%に達しています。ネット契約者の中でも高齢者の割合が高いのも特徴です。
サービスメニューは1Mbpsから100Mbps、200Mbps、1Gbpsとありますが、2014年には全エリアのFTTH化が完了する予定です。

――今後のサービス展開や事業戦略についてなにかあれば教えてください。

枝木氏:狭い地域ですので、テレビ、ネット、電話のすべてを提供できるように考えていますが、実際のサービス内容などを考えるときは、利用者の視点を優先させ、事業者の都合はなるべく排除するようにしています。高齢者も多い地域ですので、技術的な話や都合でサービスしても受け入れられません。例えば、IP電話を契約すればWi-Fiルータは無料でついてきます。周辺はLTEも入りますし、高齢者も意外とスマートフォンを所有しているので、Wi-Fi環境は重要なのです。瀬戸内海は島が多い地域でもあります。笠岡放送のエリア内にも有人の島が6つありますが、これを5GHz帯を利用した無線インターネットでつなぐ取り組みを行っています。この周波数は、総務省から実験的に許可を受けた帯域で中長距離の通信を行っています。いまのところこの実験はうまくいっています。
新しいサービスとしてはSTBを使わないスマートTVを考えています。ネットの機能をテレビの中に組み込んでしまい、TV本体には同軸ケーブルとLANケーブルを差すだけで、放送サービスやインターネットを簡単に利用できるようにしたいと思っています。STBを経由させると面倒な接続作業が必要だったり、サービスを受けられるテレビが固定されてしまいます。ケーブルを差すだけにすれば、コミュニティ放送、テレビ放送、衛星放送、そしてインターネットも簡単に家じゅうで利用できます。このスマートTVは、回線契約を従量制にする必要があるとも思っているので、実際にどのように実現させるかは検討している最中です。課金方式は難しい問題ですが、100Mや1Gなどメニューで分けるより、使った分だけ払うほうが合理的ですし、通信事業としては従量制を考えるべき時期にきているのではないでしょうか。

――他のケーブル局の事業モデルと比べてユニークな点が多いようですが、業界の近年の動向として、多チャンネル化、コンテンツ交換、VODサービス、あるいはECサイトのビジネスなどが挙げられます。これらの戦略についてはどうお考えですか。

枝木氏:これからのケーブルテレビは、マスやグローバルというよりコミュニティ戦略が重要なのではないでしょうか。多チャンネルはサービスとして考えなければならない部分はありますが、コンテンツ交換などは地域密着型のものではあまり意味があるとは思えません。逆にいえば、規模の大きいケーブル局はこれから経営がどんどん難しくなると思います。世帯数でいうと3万世帯前後が適正規模ではないでしょうか。コミュニティ戦略においては、コンテンツ交換やECといった戦略は投資にみあうかどうかを慎重に考える必要があります。エリアやサービスを広げれば、ビジネスは拡大するかもしれませんが、ケーブル局やネット事業は設備投資とのバランスが難しくなります。舵取りは難しいですが、最終的には地元のみなさんに見て喜んでもらえる番組をしっかり作り、利用者にとって便利な環境を整えていくことが大切だと思っています。
《中尾真二》
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