【対談:田中慎弥×光石研】芥川賞作家と俳優の“結末のわからない”共通点 | RBB TODAY
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【対談:田中慎弥×光石研】芥川賞作家と俳優の“結末のわからない”共通点

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光石研(左)、田中慎弥(右)/写真:黒豆直樹
  • 光石研(左)、田中慎弥(右)/写真:黒豆直樹
  • 光石研(左)、田中慎弥(右)/写真:黒豆直樹
  • 光石研/写真:黒豆直樹
  • 田中慎弥/写真:黒豆直樹
  • 「共喰い」 (c) 田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
  • 「共喰い」 (c) 田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
  • 「共喰い」 (c) 田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
  • 「共喰い」 (c) 田中慎弥/集英社・2013『共喰い』製作委員会
 きっかけは、あの芥川賞「もらってやる」発言。あれがなければ、このツーショットは実現しなかったかもしれない。

 昨年、芥川賞を受賞した田中慎弥の「共喰い」が映画化。主人公の父親で、セックスの際に相手の女性を殴るという奇妙な衝動を持つ円(まどか)を光石研が演じている。およそ10歳離れているが、田中は山口県下関市在住で光石は福岡県八幡市(現北九州市)出身。関門海峡を隔てて目と鼻の先の地で育った2人が原作者と出演者という立場で対峙する。原作に引き込まれ、自ら映画化のために奔走したという光石だが、そもそも小説を読もうと思ったのが、“あの”会見を目にしたからだった。

 改めて記すまでもないが、田中の発言とは芥川賞受賞会見のもの。女優シャーリー・マクレーンがオスカーを受賞した際の「私がもらって当然」という言葉を引用し「だいたいそんな感じ」と言い切り、さらに審査員に名を連ねる石原慎太郎都知事(当時)を念頭に「気の弱い委員の方が倒れたら都政が混乱する。都知事閣下と東京都民各位のために、もらっといてやる」と発言しセンセーションを巻き起こした。

光石:テレビで田中先生の発言を見て、それだけで翌日に本屋に行ったんです。舞台も下関で、生まれ育った土地と近いので、よく知っている匂いを感じました。特に円という男に惹かれて「映画になったらいいな。この円を演じたいな」と思って、甲斐(真樹)プロデューサーに連絡を取ったんです。

 田中にとっては自著の初の映画化。特に北九州を舞台にした『EUREKA ユリイカ』『サッドヴァケイション』などを世に送り出してきた青山真治監督がメガホンを握ると聞いて俄然、期待が高まった。

田中:そりゃ嬉しかったですよ。私は小説として完成させた自負があるけど、映画という表現でどうなるのか? 怖くもあり興味もありました。地域性という意味でも、青山監督ならば、あの土地の空気を読み取ってくれるだろうと思いましたし、僕はあくまで原作者として作品を現場に預けて、楽しみに待ってました。

 その言葉通り、映画では結末を含め、原作にはない描写がいくつも組み込まれている。特に、光石が体現した円――暴力と性への衝動を体現したこの男、ろくでなしではあるのだが、同時に抗い難い魅力を発している。

田中:実は、小説の円について私はもう少しポチャッとした男をイメージして描いてたんですが、映画で見るともう光石さんが円そのものですね。

光石:現場にたくさんの女性スタッフがいるんですが、その人たちが円に対してすごく反応するんです。メイクさんが僕の髪をいじりながら「私にとっての円は…」とか、みんな、円に対してひと言も二言も持ってる。それが僕が作ってきたものと混じり合って咀嚼され、血肉となって「こんなん出ましたけど」という感じ(笑)。今回ほど、演技プランうんぬんでなく、現場でみんなで作り上げたという意識が強い役はないですね。

田中:面白いですね。人間の根源的なもの、日常では言わないことをあぶり出すのが小説や映画です。あんな暴力的な男だけど、上辺ではない、日常では踏み込めず、議論さえしてはいけないようなことまで言える。みんな、本当は言いたいんだな、と感じます(笑)。

 原作小説に関し、女性の描写を称賛する声は多くの評論家から聞こえてきたが、円については「批評としてそこまで突っ込んだものはなかった」という。

田中:小説の中で私が書いた円は、どこかで暴力というものを体現する存在のような、ある意味“理屈”が勝っていた部分があったと思います。それを光石さんが「暴力を伝えるための人間」ではなく、まず人物として円という男が先に存在していて、そんな彼を暴力的で性的であり、どこかに愛嬌を感じる人間として仕上げてくださった。女性が映画を見てどう思うか聞いてみたいですね。

 海峡を挟み、映画の登場人物たちと似た空気を吸って育った2人。俳優と小説家。キャリアをスタートさせた時期も歩んできた道のりも違えど、それぞれに己のスタイルを持って仕事に臨んでいる。改めて2人にプロとしての意識、そうした思いが芽生えた瞬間について尋ねてみた。
《黒豆直樹》
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