【インタビュー】WiMAX 2の事業戦略とアジア構想……UQコミュニケーションズ 野坂社長 | RBB TODAY
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【インタビュー】WiMAX 2の事業戦略とアジア構想……UQコミュニケーションズ 野坂社長

ブロードバンド 回線・サービス
代表取締役社長 野坂章雄氏
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 2011年7月6日に、世界初となるWiMAX 2のフィールドテストを実施したUQコミュニケーションズ。WiMAX 2と今後の事業展開について、代表取締役社長である野坂章雄氏に話を聞いた。

■WiMAX 2が普及すれば330Mbpsのサービスも実現可能

――WiMAX 2とWiMAXは「別物ではない」とおっしゃってますね

 WiMAX 2のサービスをスタートさせる際は、データトラフィックが過密でWiMAXの帯域が逼迫しそうなエリアから、順次、WiMAX 2対応の基地局を設置していきたいと考えています。WiMAX 2のユーザは、WiMAX 2の対応エリア内では高速な通信が利用でき、エリア外でも従来のWiMAXが利用できるようになります。そして、WiMAX 2のユーザが増えていけば、WiMAXのトラフィックの一部がWiMAX 2に移るため、WiMAXによる通信も快適になる。1+1が3になるところが大きいと考えています。

――2013年の早期にサービスをスタートさせたいとのことでしたが、そうなると早い段階でWiMAX 2対応端末を提供していく必要がありますね。

 2013年の早期というのは、あくまでも総務省からの周波数割当てが順調に進めば、ということですが、仮に2013年早期にサービス開始となれば、端末は2012年の後半までにはある程度提供している必要があるでしょう。

――WiMAX 2は下り最大330Mbpsという高速な通信が魅力ですが、サービス開始当初は165Mbpsを予定されています。

 165Mbpsというのは利用できる帯域が20MHzの場合の値です。40MHzの帯域が利用できれば、下り最大330Mbps、上り最大110Mbpsの通信が可能です。これはWiMAX 2への帯域の割当てが20MHzになるものと見込んでいるためです。

――エンドユーザが330Mbpsの速度を体験することはできないのでしょうか。

 当社では、すでにWiMAXで30MHzの帯域を利用しています。WiMAX 2への移行が進めば、WiMAXで利用している帯域のうち20MHzをWiMAX 2に利用するということが考えられます。WiMAXの基地局は2008年に設置し始めましたから、耐用年数を考えると、2016年頃には新しい装置に置換していくことになります。そのタイミングで、すべての基地局をWiMAX 2対応のものに置き換えていければ、40MHzの帯域を利用した330Mbpsのサービス提供も条件的には可能になります。最後の10MHzはM2M、たとえば自販機などのテレメトリングのためにWiMAXサービスとして残しておく必要があります。

――WiMAX 2は走行速度350kmにも対応ということで、新幹線が高速走行している時でも利用できそうです。

 大手町周辺でフィールドテストを実施したときはバスだったので、350km走行による検証はできていません。しかし、WiMAX 2にはJR東日本、JR西日本、JR東海、JR九州の各社ともに、高い関心を示しています。

――これだけ高速な通信が利用できるとなると、自宅にFTTHを引き込まず、自宅でも外出先でもWiMAX 2で済ませてしまうユーザが出てくるのではないでしょうか。

 通話においても、最近では固定回線を引かずに、携帯電話のみで済ませる若者が増えていると聞きますから、そういう使い方をされる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、FTTHとWiMAX 2を組み合わせることは重要だと考えています。すべてのデータをWiMAX 2でということになったら、帯域がいくらあっても足りません。利用シーンに合わせてトラフィックを適切に分散させていくことが大切だと考えます。

■プリコーディングで100Mbps以上のエリアを拡大

――WiMAX 2対応デバイスは、すでにGCTセミコンダクタ(GCT Semiconductor, Inc.:以下GCT)から、モバイルルータ、USBドングル、ミニPCIカードなどのサンプルが提案されていますが、高速な通信に対応する分、モバイルルータではバッテリによる駆動時間と大きさの兼ね合いがありそうです。

 高速なデータ処理が必要だからプロセッサを速くする必要があり、消費電力が上がるからバッテリが持たないという考え方があるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。通信速度が向上すれば、ネットに接続する時間が短くなることもあります。また、GCTでは現在、パワーのバジェット最適化に取り組んでいて、大きさと電力の課題は解決できると言い切っています。

――WiMAX 2ではアンテナが4本になりますね。

 4×4 MIMOの効果は大きいですね。フィールドテストの結果でも、ビルの谷間にいるときは150~100Mbpsをマークしていたものが、内堀通りのように開けた場所(片側が皇居のため)に出ると80Mbps~60Mbpsと明らかに速度が落ちていました。WiMAXでも2×2 MIMOを利用しており、MIMOではパス(※)構造を複雑にしたほうが受信状態が良くなることは頭ではわかっているのですが、アンテナ2本では、なかなかその効果を実感しにくい。しかし、4×4 MIMOになるとビルの壁面に反射して複雑なパス構造が作られていることが、よくわかります。

(※)複数の送信アンテナアレイと受信アンテナアレイが対向している空間に形成される伝搬路のこと。

――ビル街のほうが有利なのでしょうか。

 現在はベーシックな4×4 MIMOしか実装していませんが、今後はいろいろなものを試していこうと考えています。たとえば、プリコーディングという技術があります。4×4 MIMOでは、4つのアンテナで受けた信号を行列演算して、直行したパスになるように処理するのですが、送信する段階で、複雑なパス構造を作り出せるように、信号を前処理してから送出します。一種のビームフォーミングなのですが、これにより、速度低下を抑止することが期待されています。たとえば、これまで80Mbpsしか出なかったエリアでも100Mbpsで通信できるようになり、100Mbps以上のエリアが広がることが考えられます。

■グローバル展開は、まずアジア地域から

――WiMAXの今後の戦略について聞かせてください。

 実はWiMAX 2のフィールドテストと同時に、海外のキャリア、ベンダ、プレス、政府関係者など60名ほどを集めたWiMAX 2ワークショップというイベントも開催しました。そこでさまざまなご意見をうかがったのですが、すでに「WiMAXかLTEか」という対立軸で捉えるような議論ではなくなっていました。スマートフォンの普及により爆発的に増大するトラフィックには、あらゆるインフラを利用して対処していかなければなりません。事実、アジア地域におけるWiMAXの動きは非常に活発化しています。たとえば台湾では、最初にWiMAXの小さな事業者を6社ほど作りましたが、今後のWiMAXの普及という観点から台湾政府では現在これを見直しているところであり、最終的には2社ぐらいに整理統合しようという案も出ているそうです。また、ビー・タイム(威達雲端電訊)という会社が、台湾の新幹線沿いにWiMAXを展開しようとしていますね。

 韓国にはKT、SKテレコム(SK Telecom)、LGデイコム(LG Dacom)という3つのWiMAX事業者がありますが、第四のWiMAX事業者認可の動きもあるようです。またKTのWiBroというサービスがありますが、今年2月にバルセロナで開催された「Mobile World Congress 2011」で、KTはWi-Fi、WCDMA、LTE、WiBroのすべてを利用して、スマートフォンやスレートPCのデータをオフロードし、増加するトラフィックに対処していくという方向性を打ち出しました。都心部や地下鉄などでWiMAXを利用し、その他の大都市圏ではLTEを利用していくつもりのようです。こうした各国の動きと、うまく連携をとっていくことが重要です。

――先日、マレーシアの事業者との相互協力についても発表されました。アジア地域でビジネス強化していくということでしょうか。

 7月7日にマレーシアのWiMAX事業者であるYTLコミュニケーションズ(YTL Communications Sdn. Bhd.:以下YTL)との相互協力について発表させていただきました。YTLとはデバイスの共同開発、仕様の標準化、国際ローミング、営業展開、プロモーションでの協力などを検討しています。以前、YTLの会長や社長と話す機会があったのですが、違う場所で違うビジネスを展開していたのに、お互いに同じことを考えていたことがわかりました。YTLは、マレー半島の西側の海岸沿いに2000局近い基地局を設置していますが、その先にはタイ、カンボジア、ミャンマー、ラオスなど、今後ニーズが見込める国々が連なっています。私たちもちょうど、台湾や韓国といった国々と協力して、アジア地域におけるボーダレスなインフラを早期に確立しようと考えていました。

――グローバル展開は、まずアジアからということですね。

 グローバル展開といっても「結局、僕らはアジアだよね」ということになります。将来的には、アジア地域で今以上にサービスも労働もいったり来たりすることになるわけで、それなら経済だけでなく、グローバルでボーダレスなプラットフォームも必要だろう、という結論に達しました。YTLでも同じことを考えていて、それが今回の相互協力として実を結びました。

――米国はいかがでしょう。方向性としてはLTEに傾いているようにも感じられるのですが。

 米国はMVNO事業者であるスプリントネクステル(Sprint Nextel:以下スプリント)と、MNO事業者であるクリアワイヤ(Clearwire)がWiMAX事業を展開しています。両者の関係は、ちょうどKDDIとUQコミュニケーションズのような関係になります。クリアワイヤは、2011年度の第一四半期で600万ユーザを獲得しており、年度末には950万ユーザを獲得する見込みとしています。このユーザ数の大きな伸びは、スプリントが販売しているWiMAX搭載のハイブリッド・スマートフォンが牽引しています。一方、昨年末、ベライゾンワイヤレス(Verizon Wireless:以下ベライゾン)がLTEのサービスを提供開始しましたが、帯域制限かかっていると聞いています。スプリントは3GとWiMAXを両方持っていますが、ベライゾンはWiMAXを持っていません。これは私の個人的な見解ですが、米国がLTEやWiMAXのどちらか一方にシフトしてしまうことはないと考えています。

――どちらかに一方にシフトして、すべての帯域を割り当てたほうが電波の利用効率が良いということは考えられませんか。

 電波の利用目的はそれぞれなので、そういう流れにはならないのではないかと思います。たとえばLTEについても、日本は中国やインドが推進するTD-LTEにしたほうがいいという意見もありましたが、そうなってはいません。それに「時間を買う」という考え方があると私は思います。WiMAX 2は今ある技術です。これを早く普及させたほうが、ユーザにとってもメリットが大きいのではないでしょうか。

――アジア地域での協業にあたって、新たなフォーラムの立ち上げなどは考えていらっしゃるのでしょうか。

 WiMAXには世界レベルのフォーラムがすでにあるので、あえてそれと違うものを立ち上げるつもりはありません。WiMAX 2を展開するに当たり、今回、図らずもUQコミュニケーションズが先頭に立ってしまいました。まぁ、たまには日本発で進めていくのもいいかなと(笑)。今後、日本の「もの作り」を世界に押し出していくには、今までのように全部が国産でなくてもいい。韓国や台湾の企業とも協業しながら、まずは日本で進めていって、今度はASEANでやりませんか、というように広げていく。そういう形で進めていきたいですね。
《RBB TODAY》
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