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【テクニカルレポート】多原色液晶ディスプレイ技術(後編)……シャープ技報

IT・デジタル テレビ
図4 5原色ディスプレイのシステムブロック図
  • 図4 5原色ディスプレイのシステムブロック図
  • 図:3原色方式
  • 図:多原色方式
  • 図5 5 原色の冗長性を利用した視野角特性改善の例を示したu’v’色度図
  • 図6 AQUOSクアトロンでの斜め線表示時におけるイメージ図
  • 図7 60インチ5 原色ディスプレイ
※同記事は、シャープ株式会社が2010年8月に発行したシャープ技報(No.33)の転載記事。

3. 多原色信号処理技術

 多原色ディスプレイ技術では、信号処理も重要な技術となります。ディスプレイは5原色であったとしても、現実的に入力される映像信号は3原色であるのが一般的です。そのため、3原色信号を5原色信号に変換する回路技術が必要となります。このような信号処理の観点から、多原色ディスプレイの性能を引き出す技術について解説します。

(1)色表示の冗長性
 通常の3原色方式では、一つの3刺激値(X0、Y0、Z0)に対して厳密には一つの(R、G、B)の組み合わせしか存在しません(「図:3原色方式」参照)。

 一方、3原色よりも多い多原色方式においては、目標とされる色を再現する原色の組み合わせが多数存在します。n色の出力信号で色をマッチングする上では、(n-3)度の冗長性で同じ色を作ることができるわけです(「図:多原色方式」参照)。

 つまり同じ色を実現する原色の組み合わせが複数存在するということになります。このことを、多原色ディスプレイの色表示の冗長性と呼んでいます。多原色ディスプレイでは、この冗長性を活用し、様々な条件から最適な組み合わせを選び出して活用することが可能です。

(2)忠実な色再現
 図4に多原色表示システムを示します。入力信号は様々な規格の信号が想定されますが、測色値(三刺激値:X、Y、Z)に変換することで入力フォーマットに依存しない処理が可能となります。その後、得られた測色値に対応する数多くの5原色の組み合わせの中から最適解を選び出す演算を行います。このように算出された5原色の加法混色で作られる色の三刺激値と、入力信号から求めた三刺激値を忠実に合わせることで、ディスプレイ上において正確な色再現を確保したまま3原色から5原色への変換が実現されています。

(3)視野角特性の改善
 液晶ディスプレイにおいて以前より挙げられている問題点の一つに、斜めから見たときに色が変化してしまうという視野角特性があります。様々な技術向上により、現在では大幅に改善されていますが用途によっては未だ不十分とされています。今回の5原色ディスプレイでは、色表示の冗長性を利用し、視野角特性に有利な色の組み合わせを用いることで斜めから見た色表示の改善に成功しました。図5は、ある色(Dark Skin:暗い肌色)を表示させる場合の視野角特性を示したu’v’色度図(正面から観測した色度点と斜め60度から見た色度点との色度ズレ)です。全ての色の組み合わせで正面の色度は“Dark Skin”と表記されている点に調整されています。ここで3原色方式ではS0点、5原色方式では使用する原色の割合が異なる数多くの候補点の中から例としてS1、S 2、S 3の3点を考えます。冗長性の無い3原色方式では1組(S0)しか解が無く、斜めから見た色度(S0’)は大きくずれてしまっています。一方、5原色方式では正面から見た色が完全に一致する色の組み合わせが何種類も存在します。例えばS1の組み合わせを考えたとき、斜めから見た色度点(S1’)の正面色度点からのズレは3原色方式よりも少なくなっていることが分かります。S3の場合では逆方向の色度ズレ(S3’)が観測されます。また、S2の組み合わせを用いると斜めから見た色度が正面色度とほぼ同じ色度点(S 2’)となり、色ズレの無い優れた表示特性を示します。このように正面から同じ色に見えても色の組み合わせを変えることで視野角特性を制御できることが分かりました。先ほど示した5原色変換回路において、3原色信号を5原色信号へと変換する際にこの考え方を用いて視野角特性に有利な組み合わせを選び出しています。

4. AQUOSクアトロン

 2010年春、多原色技術として黄色を加えた世界初4原色テレビの製品化を行いました。この黄色原色によりヒマワリの鮮やかな黄色やゴールド等の金属光沢感の表現力向上効果をもたらしています。

(1)4原色方式による利点
 2010年は3Dテレビ元年として各社から3D対応テレビが発売されていますが、眼鏡を使用した3D方式ではバックライト制御や眼鏡の透過率等の諸要因により輝度が低下し暗い画面となるのが一般的です。その輝度低下問題を改善する要素技術の一つとして光の利用効率が良い4原色技術が応用されました。従来の3原色方式では、3原色カラーフィルタの透過スペクトルに合致したバックライトの光しか利用できませんでしたが、4原色方式では新しく導入された透過率の高い黄色サブ画素により、光の利用効率が向上し明るいディスプレイを実現することができました。

(2)増加したサブ画素の有効活用
 さらに、多原色技術の応用としてサブ画素の有効活用という技術が導入されています。3原色方式では、1画素につきR、G、B、つまり3つのサブ画素が存在します。一方、4原色方式ではRGBに加え黄色を含めた4つのサブ画素となります。つまり制御できるサブ画素の総数が4/3倍に増加したと考えることができます。このサブ画素数の増加に加えてそれぞれのサブ画素を独立に制御する独自のサブピクセルレンダリング技術によって、従来の3原色テレビでは実現できない滑らかで高精細な表示を行うことが可能となりました。表示イメージ図を図6に示します。(a)、(b)どちらも左上から右下へ白色の斜め線を表示した時のサブ画素の使い方を拡大して表示したものです。従来技術である(a)では画素単位のがたつき(ジャギー)が目立ってしまうのに対して、新規技術では信号処理をサブ画素単位で行うためサブ画素の細かさを有効に活用して滑らかな表示が可能となっているのが分かります。

5. まとめ

 50年来の常識を破る多原色ディスプレイ技術を開発しました(図7)2、3、6-8)。このディスプレイは、色再現範囲が広く、世の中に存在する物体ほぼ全ての色を再現することができるばかりではなく、色表示の冗長性を活用した新しい概念の信号処理によって、視野角特性の改善等従来に無い特長も引き出すことができます。多原色技術にはサブ画素の高精細化が不可欠ですが、他の表示デバイスに比べ高精細化が比較的容易である液晶ディスプレイにとって非常に相性の良い技術と言えます。このように多原色技術は省エネかつ高性能液晶ディスプレイにおける基幹技術として非常に有望であり、今後更なる開発を推進していきます。また、現在の映像分野ではあらゆるものが従来の3原色基準でつくられています。そこで多原色という新基軸を基に新たな規格の策定を行い、コンテンツ業界および映像・放送業界と協調した全く新しい表現力の世界を多原色技術により切り拓いていきます。

※著者紹介(敬称略)

吉田 悠一(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
森 智彦(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
長谷川 誠(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
冨沢 一成(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
吉田 明子(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
吉山 和良(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
古川 浩之(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所) 
吉田 育弘(研究開発本部 ディスプレイシステム研究所)  
植木 俊(研究開発本部 表示技術研究所)  
中村 浩三(研究開発本部 表示技術研究所) 
鳴瀧 陽三(研究開発本部 表示技術研究所)  
伊藤 康尚(研究開発本部 表示技術研究所)
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