【インタビュー】無償グループウェア提供の先にあるもの──ブランドダイアログ代表取締役社長 稲葉雄一氏

2009年6月25日(木) 16時40分
ブランドダイアログ代表取締役社長 稲葉雄一氏の画像
ブランドダイアログ代表取締役社長 稲葉雄一氏
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 グループウェア「GRIDY」を無償で提供する代わりにPCの遊休リソースの提供を受け、それを仮想的に統合して巨大なグリッド・コンピューティング・プラットフォームを作り出すというコンセプトを掲げるブランドダイアログ。まずGRIDYのユーザー募集から開始し、ユーザー企業数は正式公開後45日で1000社を越えたといい、順調な滑り出しとなった。一方で、GRIDYユーザーから提供されたPCの遊休リソースについては、まずデータグリッドの資源を活用した、新サービスを今秋〜今冬にかけてリリース予定。

 無償グループウェアの使用権と引き替えにPCの遊休リソースの提供を受ける、という部分は容易に理解できるが、その遊休リソースの販売先となる市場は存在するのか、継続的に事業を運営していくだけの収益性が見込めるのか、といった同社のビジネスモデルに関してはどうにも分かりにくい部分があるのは確かだろう。そこで、どのようなビジネスモデルを構築しているのか、同社代表取締役社長の稲葉雄一氏に聞いた。

■“農耕民族”モデルはDog's Yearに対応できない

──まず、設立からこれまでの流れは?

 2006年11月に“Promotional GRID”の開発プロジェクトを立ち上げました。これを使って“Japan GRID”を創り出し、資源のない日本を(コンピューティング・リソースという)資源大国にする、ことを目指しています。Promotional GRIDを使って、ユーザーの手元にある膨大な数のPCの遊休リソースを集め、「仮想スーパーコンピュータ」を創り出すことができるのです。

 同様の取り組みとして、IBMが「ワールド・コミュニティ・グリッド」を2004年末に発表しており、“Donation(善意の寄付)”ベースで集めたリソースでグリッドを構築し、実験の場として利用しています。しかし、この取り組みをビジネスに置き換えるなら、寄付をアテにするのは無理で、何か対価が必要だろうと考えました。その対価として用意したのが無償のグループウェア「GRIDY」というわけです。

 一方で我々は、日本でテクノロジー・ベンチャーを立ち上げて成功させるためにはどのような取り組みをすべきかを考え抜き、マーケティング・モデルを作りました。

──どのようなモデルですか?

 よく言われる「狩猟採集民族の欧米、農耕民族の日本」という文化の差がポイントでしょう。日本は種を撒いて収穫まで、一年掛けて丹精込めて良い実りを得る、という農作業の経験からか、じっくり時間を掛けて質を高めていくということが基本になっています。できたものについても、その善し悪しに対する判定は厳しく、基本的にはまだダメな点を見つけて指摘する減点法での評価となります。一方米国などの狩猟民族の文化では、次に獲物がいつ捕れるか分からないのでとりあえず食べて腹を満たす。そして、もっと捕りやすくする為に、武器を進化させる、というアクションの速さがあります。その上で、旨ければ高く評価する、という加算法での評価です。日本流の丹精は、インターネット時代の“Dog's Year”と言われる時間の流れについて行けないのですが、こうした土壌で評価されるのはベンチャーには厳しい環境です。しかし、こうした分析から、まずベンチャーは信用されることが何より大切だということが分かりました。すぐに分かる減点要因があってはダメですから、セキュリティなどにも技術的に最善の対策を講じた上で、さらに人的要因に対応するためにISO 27001やプライバシーマークの取得とそれに伴う社内教育体制の整備など、「中小ベンチャーに可能な最善」を尽くしてきました。

■テクノロジーは隠してサービスを前面に

──グリッド技術のマーケティングは?

 日本のテクノロジーは「ゲーム機」「ラジコン」といった玩具から発展した経緯があるせいか、形があるものしか信用されない傾向があるように思います。日本では、GoogleやAmazonといった米国で成功したベンチャーのマネはしても、同じような技術開発に取り組むベンチャーはないようです。Googleは高精度な検索技術、Amazonはレコメンデーション・エンジンといった具合に、これらのベンチャーには核となるテクノロジーがありますが、彼らはテクノロジーをアピールするのではなく、そのテクノロジーで実現した“サービス”を前面に出しています。日本では、目に見えないテクノロジーはまねできず、具体的なサービスならマネをする、というところまで、徹底的に目に見えないものには不信感を抱くようです。

 そう考えると、中小ベンチャーである我々が目に見えないグリッド・テクノロジーを前面に出しても信用されず、難しいでしょう。そのため、目に見えるサービスであるGRIDYがあり、セキュリティをぬかりなく維持することで信用を得る、という流れです。実は当社は日本のベンチャーキャピタルとして代表的な企業から出資を受けていますが、これも信用を得る上で重要だと考えています。こうした取り組みによって、事業を続けていく中でどこかで信用される“分岐点”を越えることになるはずです。

──グリッド上で稼働するアプリケーションは?

 我々はアプリケーション開発までは行なわないつもりです。グリッドのインフラを作り、APIを公開するところを我々がやります。APIを活用してグリッド対応アプリケーションを開発するのは、ユーザー企業が自ら手がけるのか、あるいはアプリケーション・ベンダーがやるか、いろいろな形があり得るでしょう。アプリケーション・ベンダー向けに開発支援を提供するサービスも考えています。

──では、具体的なサービスの内容は?

 我々は“One SaaS Multi CLOUD”と表現していますが、ユーザー企業の規模に合わせて異なるクラウドサービスを提供する予定です。

 まず、中小企業向けには、GRIDYを提供してPCの遊休リソースを提供してもらう、という方法。中堅向けには、有償提供を考えています。また、大企業では自社内のPCの遊休リソースを自社で利用してプライベート・クラウドを構築したい、という需要もあるでしょう。この場合、我々のグリッド・ソフトウェアを有償で販売する形になり、我々の運営するグリッドの成長には直接寄与しない形になってしまいますが。

 我々が有償提供するのは、GRIDYユーザーから集めたPC遊休リソースだけではありません。GRIDYユーザーとして、既に2,500社を越える中小企業が登録されています。中小企業という、アプローチしにくい、どこに存在するかも分かりにくいグループにアクセスできる手段を提供できます。つまり、中小企業向けに営業を掛けたい企業が、当社プラットフォームを通じてサービス提供するなど、現在大きく4つくらいのサービスの準備をしており、年内一杯くらいを目処に順次正式発表していきます。


 無償提供するグループウェア「GRIDY」のユーザーから遊休リソースの提供を受け、それをグリッドにまとめた上でそのストレージや演算能力を必要とするユーザー向けに販売する、というのは分かりやすい直線的な取引ではあるが、実はブランドダイアログが考えているのは単純な「リソース再販」ではないようだ。ユーザーとして集まった企業群自体が新たな市場を形成することになるため、その市場へのアクセスを提供することもまたビジネスに繋がる。巨大グリッド・コンピュータを創り出して運用することに加え、グリッド提供企業・コミュニティに対する各種のサービス提供を組み合わせることで、オープンプラットフォーム上での、縦横に拡がる二次元的な事業展開が可能になる、という戦略のように思われる。

 なお、同社ではグリッド・コンピューティング自体の能力や可能性をプロモーションする活動も開始している。http://grilab.jp/では、動画のエンコード・デモを携帯ユーザー向けに実行し、グリッドによる処理の速さを体感できるようになっている。一般的なオープンソースのグリッド・ソフトウェアで実行する場合に比べ、同社のグリッドによる処理は場合によっては倍以上のパフォーマンスを出すこともあるそうで、グリッド・ソフトウェアとして効率の高さも体感できるようになっている。

 稲葉氏は、「品質と速さのバランスは難しいですが、ベンチャーは農耕民族的な丹精に走ってはいけない。迅速に動かないと」と語った。実際、GRIDYユーザーは急速に増加しており、スタートダッシュは成功裏に終わっている。次のサービス提供を迅速に開始し、さらなる成長に繋げていくことに期待したい。
《RBB TODAY》
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