【新幹線ネットVol.2】通信速度は列車ダイヤに関係あるのか?
◆長大トンネルでも高速、ただしムラあり
JR東海によると、新幹線インターネットの通信速度は「新幹線1編成あたり最大約2Mbps」となっている。ブロードバンド通信速度測定サイトで適宜測定してみたところ、上り速度はおおむね250kbps〜300kbpsだった。下りは測定結果に幅があり、今回の実験では品川発車直後が1.77Mbpsでまずまず、横浜発車直後が251kbpsと下がったものの、小田原の先の南郷山トンネルでは2.16Mbpsとほぼフルスピードになった。東海道新幹線で最長の新丹那トンネルでは1.87Mbps、新幹線の最高速度地点と思われる愛野駅付近(ポーラ化粧品の工場が見える)では1.72Mbps、名古屋駅到着10分前の地点で925kbpsとなった。
ちなみに、ブロードバンド通信速度測定サイトでは大手町と名古屋の計測ポイントがあるが、速度差はほとんどなかった。JR東海のシステムだけに、名古屋側にインターネットとの接続点があるのではないかと思ったが、数字を見る限りは関係なさそうだ。
新幹線の場合、列車と地上のアンテナはほぼ等距離で一定に保たれている。新幹線のインターネット接続は、線路に沿って敷設されたLCX(漏洩同軸ケーブル)を使う。これは線路に沿ってずっと1本のアンテナが延びているようなものだ。したがって、大きな駅の構内以外は常に列車と等間隔の通信距離が保たれるし、トンネルの中でも通信は維持できる。
これに対し、列車内インターネット接続のために無線LANを導入した「つくばエクスプレス」という先例がある。つくばエクスプレスは沿線に通信アンテナを等間隔に立てて列車と通信を行う方式だった。この方式はアンテナの影響範囲の境目でハンドオフを行うし、列車とアンテナの距離が常に変化する。そのため、列車とアンテナの位置によって回線速度に若干の変動が起こりうる。
JR東海の通信インフラは、通信断が起きないように最善を尽くしたシステムだ。なぜなら、新幹線のインターネット接続サービスは、もともと列車無線のために作られた設備だからである。列車無線は列車と地上の運輸司令所が交信するための重要な保安設備であり、通信断が度々あっては困るのだ。
アナログ回線で運用していた列車無線をデジタル化するにあたり、大容量のデータ送受信が可能になった。そこで、未使用の帯域をインターネットサービスに割り当てたという経緯がある。JR東海によると、通信速度は1列車当たり最大約2Mbpsで、この速度を利用者数でシェアする方式とのことだ。すると、上記のテスト結果は、「新横浜駅で乗客が増え、一斉にネット接続が始まった」「名古屋到着を前にネット利用者が増えた」のではないか。
接続速度の変化は新幹線と地上設備の環境ではなく、その列車での利用者数に関係すると言えそうだ。また、N700系同士がすれ違う場合も、その区間の公衆無線LANユーザーは増えるので通信速度は低下するおそれがある。ダイヤを検証すると、新横浜、三島、新富士-静岡間、浜松、豊橋、名古屋、岐阜羽島、京都あたりでN700系同士がすれ違う。筆者の実験で速度が落ちた新横浜付近と名古屋付近がまさに該当地点だった。
最大2Mbpsという通信速度が、将来増速されるかについては公表されていない。しかし、列車無線本来の帯域は確保しなければならないうえ、今後のN700系電車の増備でインターネット接続利用者が増えることを考えると、簡単に増速の約束はできないだろう。
◆対応列車や区間を増やしてほしい
新幹線のインターネット接続は使い勝手が良かった。増速は難しいかも知れないが、それ以外で改善してほしい部分がいくつかある。まずは対応列車の少なさだ。現在、東京発の下りでみると、N700系車両は博多行きと広島行きの一部で、1時間当たり2本である。N700系を1本見送ると、次は30分後。しかし、その間に最大6本の大阪行き「のぞみ」がある。新幹線の中でさえネットに繋いで仕事をしたい。そんなビジネスマンにとって30分の待ち時間は長い。次のN700系にすべきか、ネットが使えなくても先に着く「のぞみ」に乗るべきか悩むことだろう。
列車内の滞在時間で言うと、2時間半で新大阪に着いてしまう「のぞみ」よりも、約4時間かけて走る各駅停車「こだま」のほうがインターネット利用のメリットは大きい。JR東海はこだまの乗車率低下に苦心しているし「ぶらっとこだま」などの格安きっぷも設定して集客の努力をしている。N700系の増備を急ぐ一方で、こだまに使われる従来車両もネット接続に対応してほしい。
先に述べたとおり、対応区間は東京−新大阪間の東海道新幹線のみだ。これもぜひ山陽新幹線区間に拡大してほしい。管轄がJR西日本になるので難しいとは思うけれど、N700系は博多や広島まで走る。車上設備が対応しているなら、ぜひ地上設備を整備してもらいたい。JR西日本は関西〜九州で航空機と激しく競争している。その競争に勝つ手段として、インターネット接続は大きな利点となるはずだ。
今のところ飛行機の国内際ではインターネット接続ができない。ボーイングの衛星方式は潰えたが、地上アンテナ方式がアメリカの国内線で採用され始めた。日本でも三菱電機などが開発中という。その前に新幹線の全区間でインターネット接続ができれば、航空機に対して大きなリードとなるだろう。
東北新幹線系統を要するJR東日本にもぜひ導入してもらいたい。新幹線青森開業により乗客の車内滞在時間は延びる。現在も秋田新幹線「こまち」は秋田まで4時間、山形新幹線「つばさ」は新庄まで3時間半かかる。ネット接続の需要はあるはずだ。
◆駅での接続は改善点多し
駅のアクセスポイントについてはおおいに改善の余地がある。速度は申し分ない。今回の実験では、東京駅ホームの待合室で1.72Mbps、東京駅東海道新幹線南乗換改札内「カフェ・リニ」前のモバイルコーナーでは下り17.71Mbps・上り14.68Mbpsだった。移動体ではないので、IEEE802.11b/gの本来の速度に近づくということだろう。
しかし、設置場所の立地と少なさが問題だ。ホームの階段を下りたコンコース待合室ではありがたみがない。ホーム上のすべての待合室で使えるようにしてほしい。今回、筆者は新幹線乗車前の無線LAN接続でおおいに迷った。駅構内にはネットが使える場所について案内標識がなく、時刻表に掲載された駅構内図にも明示されていなかった。実はホームでホットスポットの電波をキャッチできたので、ホームでも無線LAN接続ができると思ったけれど、停車中のN700系が過ぎ去ったら接続できなくなった。そう、ホームで接続できた状態は停車中のN700系からの電波を拾っただけ。ぬか喜びだった。
ノートパソコンを携帯し、車内でネット接続したいと思うほど忙しい、そんな新幹線利用客が、わざわざコンコースの下の待合室でネットを使うだろうか。東京や名古屋などの大きな駅では、無線LAN対応の待合室を探す手間がかかる。先を急ぐ新幹線の客にとって、待合室を探すくらいなら、すぐに発車する新幹線に乗った方がいいはずだ。彼ら利用者が望むスタイルは、「ホームの待合室で新幹線乗車前から接続動作を済ませておき、接続したまま車内の指定席に座れる」ことだ。列車が見える場所で列車を待ちたい。そのほうが安心できるというものだ。もっとも、JR東海の無線LANサービスのパンフレットによると、今後、すべてのホームの待合室で無線LAN接続を可能にする方針のようだ。その文言を見て安心した。
◆「1DAY PASSPORT」は駅で買いたい。
今回試したHOTSPOTの「1DAY PASSPORT」は、筆者のように無線LANアクセスの利用頻度が少ないユーザーにとってとても便利だ。しかし、あえて言わせていただくと、駅で買えないとは少々不便である。せっかくエクスプレスエリアというエリア名をつけたのだから、駅の売店でIDとパスポートを購入できたら便利だと思う。新幹線のチケットを購入した。ホームに上がった。表示を見るとN700系だった。それならネットを使ってみるか。そんなときにIDを購入する手段がないのだ。プリペイドカードをキヨスクで販売してもらえないだろうか。
さらにいうと、24時間500円の「1DAY PASSPORT」だが、新幹線の中だけで使うなら24時間も要らない。新幹線でちょっとだけネットを使いたいという人のために「Expressパスポート」とでも名付けて、5時間300円くらいの無線LANチケットがあっても良さそうだ。既存のキャリアではなく、JR東海が新幹線限定のアクセス権を販売してもいい。あらかじめプリントしたIDとパスワードのカードを作る手間が嫌なら、駅の指定券販売機やみどりの窓口に発行機能を備えてもいいと思う。もっとも、みどりの窓口の混雑状況を見る限り、自販機やキヨスクの方がいいと思われる。「Expressパスポート」を用意してくれたら筆者は喜んで使うし、無線LAN接続の便利さに馴染んだら月額契約へのステップアップを検討するだろう。
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