【特集・SaaS】ビジネスボリュームは100倍に伸びる——セールスフォース・ドットコム代表取締役社長 宇陀栄次氏
——日本におけるSaaSの現状をどう見ますか?
国内では、いまのビジネスボリュームを考えると100倍くらいに伸びると思います。ワールドワイドでの国別の伸び率では日本が一番ですね。伸び率が高い理由としては、大手企業が採用し始めているということがあるかもしれません。ここが欧米と違う点ですね。欧米やアジアパシフィックは中小企業の採用が伸びています。
日本は残念ながら、大手が採用したものを中小企業が順番に採用していくという風潮があります。中小企業が自らいい物を選んで採用していくという考えが弱いような気がします。また、大企業でのSaaSの導入は、ITに関するコストを下げる目的が多いようです。ITシステムというのは、これまで“資産”という考え方でしたよね。そうなると、耐用年数は5年です。5年も同じシステムを使っていますと、かなりの部分が改修され、同じ機能でいいというのは、2年から3年という時代になっています。
ましてや、セールスフォース・ドットコムのメインエリアのCRMですと、販売戦略が5年も同じなんてあり得ないですよね。SaaSは、動き出した時点では、1割から2割しか完成していないと言われます。残りの8割から9割は動き始めた時点から変えていかなければなりません。しかし、多くの会社はパッケージソフトの採用や独自のシステム開発を行っています。その結果、膨大なコストがかかり、最終的には使わなくなったとか、完成にこぎ着けなかったというケースも多々あります。
——SaaSにおける次の段階はどのようなイメージですか?
まず、IT産業の5割くらいのマーケットを占めるようになると思います。IT産業というのは、まだまだ発展段階だからです。東京を見渡しますと、この密度ではもうビルや住宅は何も建たないという気がしませんか。しかし、壊して建てる“スクラップ&ビルド”をしていますよね。なので建築業界はなくならないです。この建築業界と比べるとIT産業は、もっと手前ですよ。すっからかんで、みんな平屋みたいなものばかりですね。そんなIT産業の中で、ようやく六本木ヒルズ(セールスフォース・ドットコムが入居するビル)みたいなのが建ちました。それがクラウドコンピューティングです。ITシステムも建築物のように、スクラップ&ビルドで進化していくでしょう。あと、IT産業は、いままでの産業と比べますと、大手が中心の基幹系が中心だったような気がします。大手から中小企業、バックオフィスからフロントエンドシステムという4象限で考えると分かりやすいと思います。
中小企業のバックオフィスは、SaaSが適していると思います。例えば、地方銀行がそうです。地方銀行が集まり、同じシステムで勘定系を動かしているケースがいくつもあります。これはまさにSaaSですよね。中小企業のバックエンドもすでにSaaSで動いているわけですよ。
今度は、中小企業の情報系も、SaaSでいいのではないかという話が出てきているわけです。ここではたまたま銀行の例を話しましたが、もっと小さな会社ですと、自前でシステムを作るのはかわいそうですよね。自前でシステムを構築しますと、できあがった頃には陳腐化します。それだったら、最新の物を使い続けられるSaaSの方がいいじゃないですか。
——SaaSを採用してほしい業界はありませんか
中央官庁や地方自治体だと思います。官僚の方とお話をする機会があったのですが、建築基準法が改正されましたよね。その改正で、建築申請の内容が複雑になり、期間が長くなったというのです。これは、住宅着工件数が減るほど大きな影響だそうです。この建築基準法の申請に限らず、いろいろな申請業務で滞留している書類はSaaSを使ってうまく回せばサイクルが変わる可能性がありますよね。
あと最近ですと、国民生活センターがあげられると思います。国民生活センターは、拠点がたくさんある上に、自治体ごとに管理されているそうで情報の連携が非常に複雑です。しかも、20年前も前の仕組みで情報を管理しているため、実態をつかんで報告されるまで50日かかるそうです。1つ事故が起こったら、違う場所でも同じ事故が発生する可能性があります。ですので、事故が発生して届け出があったら、すぐに監督官庁に報告されるという仕組みをSaaSで構築したらいいですよね。
官公庁といいますと、新しい物に対して反応が遅いという印象がありました。受注が確定したというわけではないですが、そのような雰囲気もなくなってきていると思います。というのは、主要なポジションな方々にデモやディスカッションをしたところ、技術的なことも含め鋭い突っ込みをいくつもされました。SaaSの本質を見抜かれたようでした。
——SaaSならではの導入事例はありませんか
ねじを販売する会社と、京都で配管設備を営んでいる流体計画がセールスフォース・ドットコムでシステムを構築したというものがあります。ねじ販売や配管設備のシステムをパッケージで作る会社なんて、どこにもありませんよね。どちらにも「いいシステムを作ったんだったら、それをセールスフォース・ドットコムのプラットフォームに載せてみてはいかがですか」と提案しました。「全国で同じような商売をしているのは御社だけじゃないから、ほかの会社にもシステムを販売してよ」と。同じ業種なら販売システムも似てきますので、コピーしてみんなに使わせてあげたいですよね。同じ販売システムを使っても、縄張り争いにはならないと思いますよ。中小企業ですと、青森と東京の同業者がけんかをすることはないと思いますから。そういう形で共有できればすごくいいじゃないですか。それが夢なんですよ。
——マイクロソフトも「SaaS」との話がありますが
ハードウェアやOSをプラットフォームだと言い張っているのは、20年前や15年前の考えです。そうすると、「わたしはプラットフォームです」と主張しているに過ぎません。設計図を書かずに家の絵を描いて、「これがおうち」と言っても家は建たないですよね。言えばいい、書けばいいというものではありません。
マイクロソフトが得意な分野は、OSと周辺のデスクトップアプリケーションだと思います。その考えで行くとGoogle Appsとの競争ですよね。マイクロソフトがどのアプリケーションでお客さんを引きつけているかといいますと、まだOracleやSAPが近いかもしれませんね。
——WindowsなどのプラットフォームとSaaSはまったく違うということですか
従来のコンピュータモデルは、トップダウンアプローチだったと思います。OSのメーカがアーキテクチャーを決めるのですが、それだとやれることが狭まっていく気がしていました。
セールスフォース・ドットコムは逆です。いま、セールスフォース・ドットコムには100万人くらいのお客さんがいますが、毎日のように機能追加の要望が届いています。これらはデータベース化しており、要望の数により優先度を決め、次のバージョンでリリースします。このように、セールスフォース・ドットコムは、お客さんが欲しいという方向に進んでいます。Windows Vistaは3年か4年ぶりのバージョンアップだったと思いますが、年に3回のセールスフォース・ドットコムと比べますと、9倍以上の差があります。このように、お客さんの要望を入れながら機能の追加をしていきますと、あっという間に差が付いていきますよ。
あと、セールスフォース・ドットコムのシステムだけがどう進化するのではなくて、業界全体がどう進化するのかが重要だと考えています。分かりやすい例がGoogleストリートビューが出てきたときです。セールスフォース・ドットコムの住所情報とGoogleストリートビューが連携したら、周辺の様子がすぐに分かります。
——SaaSはIT業界の中でどのような立場になるのでしょうか
SaaSは、アプリケーションのプラットフォームの1つになると考えています。しかし、すべてSaaSに変わるとは思っていません。当然、メインフレームもオープン系のシステムも残るでしょう。そんな中で、セールスフォース・ドットコムなどのSaaSという選択肢が増えたということです。
米国本社CEOのマーク・ベニオフは、「The End of Software」(ソフトウェアの終焉)と言っていますが、セールスフォース・ドットコムのビジョンを分かりやすく言っているのであって、すべてがなくなると思わないですね。
あえてThe End of Softwareを言わせていただきますと、ソフトウェアが中心が中心の時代は終わったという意味です。では、次に何が主役なのかといいますと、お客さんです。ようやくお客さんが中心になって物を選ぶ時代になってきたと。SaaSという選択肢が増えたということで、お客さんが中心の時代になりました。
——最後にセールスフォース・ドットコムが目指すビジネスモデルをお聞かせください
個人的に思っているのは、玉川高島屋のモデルです。高島屋も自ら商売をしていますが、テナントとしてエルメスやグッチ、ルイ・ヴィトン、シャネルなどの一流ブランドも一緒に入っています。高島屋とこれら一流ブランドは、シナジー効果で集客に成功しています。玉川高島屋は自分の商売をきっちり行い自ら集客をしているのですよ。それに、一流ブランドのテナントが加わることでシナジーを生んだんだと思います。
セールスフォース・ドットコムはこれまで、CRMとSFAの分野で自ら集客してきました。玉川高島屋が自ら集客したのと同じです。このようにCRMとSFAを提供した結果、セールスフォース・ドットコムはプラットフォームが分かってきました。ERPやSCMの分野では、セールスフォース・ドットコムはプラットフォームに専念し、アプリケーションはパートナーと組むことに決めました。先日発表した、OBCとの提携がそれです。これが、玉川高島屋のテナントとして入っている一流ブランドということですね。
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