【東京国際女性映画祭】「あなたになら言える秘密のこと」のイサベル・コイシェ監督が来日
「あなたになら言える秘密のこと」は、「死ぬまでにしたい10のこと」で主人公のアンを好演したサラ・ポーリーのためにコイシェ監督自らが書いた脚本。どこかミステリアスで繊細な魅力をもつポーリーが今回演じたのは、職場の工場で周囲の誰とも交流しようとしないため、どんなに真面目に働いても疎まれてしまう孤独な女性ハンナ。そんな彼女がひょんなことから、海の真ん中に浮かぶ油田採掘所で、ティム・ロビンス演じる重症患者の看護を引き受けることになる。そして、一般社会から隔絶された場所で働くうちに、何も語らず、何も求めずを通してきた彼女の抱える秘密が徐々に明らかになってゆく。
上映後、盛大な拍手でステージ上に迎えられたコイシェ監督は、まず、ミステリアスなオープニングについて質問されると、「私はミステリアスなものが好きなんです。ミステリーは人生を触発させると思っています。観客の皆さんが、ミステリーのパズルの中に自然に入って行けるようにしました」と謎めいたハンナのキャラクターと脚本の展開について語った。たとえば、幸福や満足感とはほど遠い感じの「リンゴとチキンとお米」だけだったハンナの食事が、油田採掘所の陽気なスペイン人コックの料理によって、味わうという感覚を呼び覚まされ、再び人生を生きようとするきっかけを掴むこと。料理を味わうことはとても大切で「生きるとは味わうことです」と。
また、子供の頃に父親から第2次世界大戦中の強制収容所の話を聞き、10代の頃にプリモ・レヴィ(イタリアの作家。アウシュヴィッツから生還するものの後に自殺。自伝を映画化した「遥かなる帰郷」はフランチェスコ・ロージ監督、ジョン・タトゥーロ主演の1996年の作品)の本をよく読んだというコイシェ監督は、「強制収容所そのものが地獄であるのに、せっかく生き残っても、その後に待つ人生もまた地獄である」と感じていて、さらに、サラエボでドキュメンタリーを撮影した際に、戦争で生き残った45人の女性から拷問の話を直接聞いたことも本作を書くきっかけになったという。「それはほんとうに想像を絶するものでした。彼女たちに重要なのは、私たちが話を聞いてあげることなんだと思いました。それで映画をつくったのです」
しかし、コイシェ監督は特定のメッセージを込めた映画づくりはしないという。メッセージがあるとすれば、それは観客に委ねるしかないと。「サラエボの彼女たちのことを皆さんに伝えたいと思いました。でも、ユーゴスラヴィアの映画を作ろうと思ってはいませんでした。ただ、知れば知るほどわからなくなったんです。苦しんでいる方がたくさんいて、そのことを他の人たちも認識した方がいいのではないかと思いました。本当に人を助けるとはどういうことなのかを考えたいと思いました」
2時間近い上映時間にかかわらず満席で立ち見が出るほどの盛況ぶりで、客席には女性ばかりではなく、男性の姿も。「あなたになら言える秘密のこと」は、平穏な日常を突如奪い去る戦争や事故が、いかに個々の人生に深い傷を与えるかが描かれてはいるものの、決して重苦しい作品ではない。それはきっと、スペインのカタルーニャ出身のイサベル・コイシェ監督のもつ人間に対する温かさや独特のユーモアによるものが大きいに違いない。
今回の上映を逃してしまった方はもちろん、もう一度ハンナの人生について考えてみたい人には、2007年新春第2弾として全国ロードショーも決まっているので、劇場で再び彼女に会えるチャンスがある。
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